2012 Fiscal Year Research-status Report
引退期にあるトップ・アスリートの内的キャリア形成と支援の方法に関する研究
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23730392
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
小川 千里 近畿大学, 経営学部, 准教授 (90340760)
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Keywords | アスリート / 引退 / キャリア / 支援 / 教育カウンセリング / キャリア・カウンセリング / 構成的グループエンカウンター(SGE) / TAE |
Research Abstract |
年度開始当初の研究目的に沿って「引退期のアスリートの状況についての言語化」と「具体的支援の開発」を行った。 「アスリートの状況についての言語化」については、エクササイズを通じた質的データの分析、ならびに発達に関わる文献の検討を行った。その結果、「引退期にある大学生アスリートの発達的特徴」として、本研究課題の研究協力者は「心理社会的発達理論」(Erikson, 1959)において、実年齢よりも幼い段階の発達課題と危機に直面していることが分かり、国際学会(ECP2012)で成果公表した。 「具体的支援の開発」については、引退期の大学生アスリートが自己概念を言語化する際に、「TAEによる自己PR作成」(得丸, 2008)が条件付きで有効であることを示した(日本体育学会2012)。エンカウンターの手法については、大学生アスリートに実施している「全体シェアリング」について、國分康孝先生(NPO日本教育カウンセラー協会)、國分久子先生(NPO日本教育カウンセラー協会)、大友秀人先生(北海商科大学)のスーパービジョンにより、実践的文脈で実施可能であるとの評価を受けた。全体シェアリングは構成的グループエンカウンター(SGE)の中でも非構成的であり、熟練者以外による実施が困難であるため、一般の研修におけるスーパービジョンは、日本で初めての試みであった。このことは、本研究でアスリートを対象に行ってきた非構成のエクササイズが、学術的に支持を得たことを示す点で重要である。 他方、当初の研究目的に加え、「青年・成人期の発達障害を持つ人とその支援」に関わる文献を検討し(商経学叢58(3))、関連する事例について成果公表した(JECA2012, ICHWS2013)。この過程で、発達障害を持つ人への先行研究と具体的支援が、引退期のアスリートを支援する方法に何らかの貢献を与える可能性があるとの示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
年度開始当初の研究目的に沿って研究を進行し、質的データの分析を研究成果に十分つなげることができた。今年度は量的研究を行わなかったが、その代わりにインタビューやエクササイズの実施に集中したことにより、量的調査から得られるよりも濃密で希少性の高いデータが得られた。このことから、当初予想していたよりも極めて質の高いデータを収集することができたと認識している。 また、「引退期のアスリートの状況についての言語化」に関しては、キャリア支援において欠かすことができない隣接分野(臨床心理学、カウンセリング心理学)から適応できる知見をまとめることができた。「具体的支援の開発」については、構成的グループエンカウンターの手法のいくつかについて、国分康孝先生をはじめ、世界の第一人者らによるスーパービジョンを通じて実践可能性を確認できたのは貴重な成果であった。構成的グループエンカウンターによる支援の方法とその実践については、年度内のデータ分析が進み、来年度キャリア支援にかかわる国際学会(国際学校心理学会ISPAC2013)で発表エントリーを採択された。このことは、国際的にこの手法が関心を集めていることを示している。 以上から、今年度は当初予想していた以上に進捗を得られたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度取り組んだ「引退期のアスリートの特徴に関する言語化」と「具体的支援の開発」について、随時成果公表を行う。また、文献検討やデータの収集・分析を通じて、今年度の議論を補いたい。 「アスリートの特徴に関する言語化」は、今年度までに行った分析内容に基づき、隣接分野から適用可能な内容について文献の検討を進めることにより不足を補いたい。特に、「発達障害の特徴を持つ人に対する支援」に関する研究蓄積と、引退期のアスリートの特徴との関連性について検討したい。発達に関わるトピックについて、豊富な研究蓄積のある臨床心理学やカウンセリング心理学、ならびに発達心理学の分野の専門的知識に手がかりを求め、本研究への適用可能性について十分に検討したい。発達障害と引退期のアスリートを対象としたキャリア支援の関わりについて言及した研究はこれまでにない。この点を学術的に明示することができれば、引退期のアスリート支援に関するきわめて重要な研究成果になると期待できる。同時に、実践的な支援の事例についても、プライバシーに十分配慮したうえで成果公表していきたい。 他方、「具体的支援の開発」については、SGEを通じたデータの分析結果について、できる限り成果公表する。また、引き続きエクササイズの実施とインタビューや観察による調査を進めることにより、具体的支援の方法の表記や適用、実施の条件について検討を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費執行の主たる案件は、「具体的支援の開発」に関する研究成果の公表である。本研究課題は、今年度までに行ったインタビューと観察によるデータ分析を終了しており、国際学会で発表することが決定している(国際学校心理学会ISPAC2013)。このため、海外旅費、学会参加費を執行する。 このほかに執行が可能であれば、「引退期のアスリートの特徴に関する言語化」について、分析結果を随時公表していきたい。中でも引退期のアスリートの事例であれば、発達的観点に基づく支援のプロセスについて、可能な限り学術論文や学会で成果を公表していきたい。よって、旅費、その他の費用として執行したい。 最後に、収集された情報や分析中のデータ、結果を集約するためメモリ購入を予定しており、物品費の執行を予定している。
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