2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23730405
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小野 晃典 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (20296742)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | マスカスタマイゼーション / 成分ブランディング |
Research Abstract |
本事業にとって初年度にあたる本年度においては、本事業のテーマを構成するキーワードとしても掲げられている、「マスカスタマイゼーション」および「成分ブランディング」という2つのテーマについて、並行して探究していった。 第1に、前回の科研費事業から引き継いだテーマである「マスカスタマイゼーション」に関しては、大量生産の既製品を供給するシステムと、そうした既製品に類する大量生産品ながら、顧客の注文を受けて製品成分を変更した製品であるマスカスタマイズ製品を供給するシステムにおける、消費者行動の異同についての研究に取り組んだ。この研究は大いに飛躍を遂げ、前者と後者、すなわち、既製品とマスカスタマイズ製品の両方の同時的な供給を受け、顧客が自由に往来して両者のいずれかを購買することのできるカスタマイゼーション・システムと、旧来のカスタマイゼーション・システムの比較という、世界的にみて新しい分析視覚をもって、一定の研究成果を挙げることに成功した。 第2に、より新しい研究分野である「成分ブランディング」に関しては、その背景知識を構成する「ブランド論」および「流通チャネル論」の文献サーベイを行いつつ、もっぱら前者に依拠しており記述的な研究にとどまってきた「成分ブランディング」研究に対して、後者の分析視覚を導入する形で研究に取り組む方針を固めた。この研究もまた順調に進捗し、完製品メーカー(本事業の文脈から言えば、マスカスタマイゼーションを行っている企業)が主導するブランド活動と、成分メーカー(本事業の文脈から言えば、マスカスタマイゼーション・システムにおける選択肢の各々を納入している企業)が主導するブランド活動の間に見られる現象は、流通チャネル論のキーワードである「パワー」や「協調的関係」をもって説明可能であるという見通しを付けることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本事業は、初年度である本年度より早くも、「マスカスタマイゼーション」および「成分ブランディング」の両分野における大きな前進に貢献することができた。 第1に、「マスカスタマイゼーション」というテーマについては、既製品とマスカスタマイズ製品の両方を供給しうる統合型マスカスタマイゼーション・システムという新しい概念を着想した結果、マスカスタマイズ製品のみを供給することを念頭に置いてきた既存のマスカスタマイゼーション研究の枠組を大きく拡張し、新たな調査仮説をもって知見の導出に成功することができた。この成果の一部は、米国カリフォルニア大学バークレー校が主催するマスカスタマイゼーション&パーソナライゼーション世界会議にて報告し、高い評価を受けることに成功しただけでなく、報告を機に、この新しい理論枠組に関する同分野の研究者たちの建設的意見を多数もらうことができ、今後の研究の方向性を具体化させることに成功した。 第2に、「成分ブランディング」というもう一方のテーマについては、マスカスタマイゼーションの普及によってそれを行って顧客ニーズとのよりよい合致を目指す好ましいブランドであるということ自体がブランド力の上昇に貢献しなくなってしまうことがありうる近未来を想定し、それ自体が高ブランド力を誇るマスカスタマイゼーション・ブランドから、低ブランド力しか有しないマスカスタマイゼーション・ブランドまでの多様なブランドにとって、それらのブランドが選択肢として提供する個々の成分のブランド力が高いほうが望ましいと見なされるか、ブランド力が低いほうが望ましいと見なされるかという、全く新しい視点からの研究を展開した。この研究もまた、米国マーケティング科学アカデミーにて査読を得て研究報告を行うことができたことから察せられるように、一定の高い成果を挙げることに成功したと言いうるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
本事業は、最終年度にあたる次年度においては、「マスカスタマイゼーション」および「成分ブランディング」という2つのテーマの結び付けを強化するという課題に取り組む目論見である。 第1に、「マスカスタマイゼーション」というテーマについて、既製品とマスカスタマイズ製品の統合型供給システムという新たな概念を着想したのは、既製品が構築してきたブランド力と、マスカスタマイゼーション・システムにおいて顧客に選択肢として提示される数々の製品成分のブランド力の間の二項対立の図式が念頭にあったからであるが、実際に、既製品ブランドと成分ブランドの対立や協調の関係を描写しうるように概念および枠組を拡張する作業は残されている。 第2に、「成分ブランディング」というテーマについて、このテーマに関するブランド研究は全般的に未開であったために、そこに流通チャネル研究の知見を援用することによって分野の前進を図ることは容易な取り組みであったが、目下、既製品を構成する製品成分のブランディングについて念頭において研究中であり、カスタマイズ製品を構成する製品成分のブランディングとの異同を探究する作業が残されている。 以上の2つの作業を行うことによって、マスカスタマイゼーションと成分ブランディングを結び付け、これまでに類を見ない、マスカスタマイゼーション・システムにおける成分ブランディングが、同システムの競争力を強化したり、逆に、企業の意図とは裏腹に衰退させたりする現象を取り扱って研究成果を挙げていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、計画より順調に研究成果を挙げることができたため、計画していた大規模調査の実施を留保し、便宜サンプルを用いた予備的調査のみを実施したうえで、本事業の中間物として論文をいったん執筆し、いち早く周囲からのフィードバックを得るというフェーズにより多くの時間を掛けることとなった。そのため、潤沢の資金の一部を次年度に留保することができた。次年度においては、本年度に実施を保留した調査資金を次年度の資金と合わせて、より大規模かつ精密に実施し、より評価の高い調査結果および研究知見を得るすることを目指したい。さらに、そうした結果や知見に対するフィードバックを得るために、本年度に引き続いて、内外の研究者との研究交流を図る目論見である。
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