2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23730426
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
米谷 健司 東北大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (90432731)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 財務会計 / 税効果会計 |
Research Abstract |
本研究の狙いは、株式市場における税金情報の有用性を、企業の税務環境の実態に留意しながら、税効果会計情報の観点から実証的に分析することである。こうした目的を達成するためには、企業の税務環境を分析するためのデータベースを構築する必要があり、平成23年度においては、有価証券報告書の中に税効果会計の注記情報として開示されている「繰延税金資産および負債の発生原因別内訳」を収集した。なお、対象企業は日経平均採用銘柄(225社)であり、対象期間は2000年から2010年までとした。また、平成23年度では、これらの情報のうち、とりわけ繰延税金資産に係る評価性引当額に焦点をあて、経営者がそれを会計政策の手段として利用しているのか否かを分析した。具体的には、当期の利益水準がベンチマーク(ゼロ、前期利益、直近の予想利益)を上回る場合とそれを下回る場合で評価性引当額の設定行動に変化が見られるのか否かを分析した。その結果、いずれのベンチマークにおいても、当期の利益水準がベンチマークを上回る企業は評価性引当額を増加させており、それを下回る企業は評価性引当額を減少させていることが明らかとなった。これは先行研究と整合的な結果である。さらに、どのような場合に評価性引当額を活用して利益の捻出を図っているのかを分析するために、当期の利益水準がベンチマーク(ゼロ、前期利益、直近の予想利益)を若干下回る企業が評価性引当額をシステマティックに減少させているのか否かを分析した。その結果、ベンチマークを直近の予想利益とした場合にのみ、システマティックな評価性引当額の減少が観察された。これらの結果は、経営者が直近の予想利益を達成するための会計政策の手段として評価性引当額を設定していることを示唆する。これらの分析結果は、税効果会計の注記情報の価値を指摘したという点において貢献があったと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、株式市場における税金情報の有用性を実証的に分析することである。投資家にとって企業が直面する将来の税率に関する情報は重要である。将来の税率は欠損金や税額控除の利用度、あるいは経営者の税金に対する意識などによって変化するため、企業の税務環境の実態を正確に把握することが必要となる。このような目的のもと、本研究では大きく2つのことを明らかにしたいと考えている。1つは、税務環境の実態と資本市場の関係を明らかにすることである。財務諸表の情報からどの程度企業の税務実態を浮き彫りにすることができるのか、またそれらが投資家からどのように評価されているのかを明らかにすることである。いま1つは注記情報を利用して推定された限界税率と資本市場の関係を分析することである。欠損金や繰延税金資産(及び負債)の影響を考慮した税率が投資家の意思決定に資する情報になるのか否かを明らかにすることである。これらの分析を行うためには、次の作業が必要となる。(1)企業の税務環境を分析するためのデータベースの構築(税効果会計の注記情報の入力)、(2)資本市場との関係を分析するためのデータベースの構築(株式リターンや資本コスト等の推定)、(3)企業の税務環境の実態に影響を与える諸要因と資本市場との関係に関する実証分析である。このうち、企業の税務環境を分析するためのデータベースについては平成23年度において実施済みであり、これを利用した限界税率の推定も当初の計画どおり本年度実施予定である。ただし、税効果会計の注記情報の収集に予想以上に時間がかかったため、資本市場関連のデータベースの構築が遅れている。株価や株式リターン、資本コストなどの資本市場の変数を早期に収集したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を遂行するためには、(1)企業の税務環境を分析するためのデータベースの構築(税効果会計の注記情報の入力)、(2)資本市場との関係を分析するためのデータベースの構築(株式リターンや資本コスト等の推定)、(3)企業の税務環境の実態に影響を与える諸要因と資本市場との関係に関する実証分析が必要である。(1)の作業は実施済みであるため、本年度は、平成23年度に実施できなかった(2)の資本市場関連のデータベース構築を早急に行いたいと考えている。資本市場関連のデータベースの構築を行ってから、(3)の企業の税務環境の実態に影響を与える諸要因と資本市場との関係に関する実証分析を行う。具体的には、繰延税金資産及び負債の変動に関するボラティリティと、資本市場の変数(予想利益の精度や修正回数、資本コスト、株価、リターンなど)との関係を分析することを予定している。なお、本年度は(1)の税務環境に関するデータベースを活用して限界税率の推定も行う予定である。推定された限界税率が企業の税務環境によって異なるのか否かを分析し、企業の税務環境を外部から分析ための指標になりうるのか否かを考察する。本研究は、本年度が研究期間の最終年度であるため、国内の研究会および学会で研究成果を随時報告する予定である。また、研究成果を論文にまとめ、学術雑誌に投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、企業の税務環境を分析するためのデータベースの構築(税効果会計の注記情報の入力)に予想以上に時間がかかったため、研究の進捗が若干遅れている。当初の研究計画を遂行するためには、資本市場との関係を分析するためのデータベースの構築(株式リターンや資本コスト等の推定)を早急に実施する必要がある。『NEEDS-FinancialQUEST』(日経メディアマーケティング株式会社)などのオンライン・データベースを契約して、必要なデータを収集・加工する。なお、株式リターンや資本コストは複数の推定方法によって測定する予定であり、これらの測定には時間がかかると予測される。このため研究補助員を雇用して作業の効率化を図る。この作業には専門的な知識が必要となるが、実証研究を専門とする大学院生に研究協力を打診している。またデータベースの構築作業を可能な限り標準化するなどして、作業に混乱をきたさないよう工夫している。また、平成24年度は国内の研究会および学会で研究成果を随時報告するため、そのための費用を旅費として使用する。また研究成果を論文にまとめて学術雑誌に投稿する予定であるため、投稿料や英文校正などが必要な場合はそのための費用して使用する。
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