2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730454
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Research Institution | Osaka Gakuin University |
Principal Investigator |
奥田 真也 大阪学院大学, 流通科学部, 准教授 (40351431)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | リスク / 会計情報 / 実証研究 / 資本市場 |
Research Abstract |
昨年度はリスクに関する研究成果を2本公表できた。「わが国の会計制度改革期における利益の質と個別リスクとの関係について」においては、利益の質と個別リスクの関係について考察した。公表情報の質が高ければ、企業と投資家との情報の非対称性が減少し、その結果リスクが減少すると考えられる。もし利益の質が公表情報の質の代理変数であり、かつ先述の仮説が成り立てば、利益の質が高ければ、株式のリスクは小さいと考えられる。その他の変数もコントロールして検証した結果、利益の質と株式リスクは負に相関していることがわかった。これは先述の仮説通り、利益の質たかければが経営者と投資家の情報の非対称性を減少することを示唆する結果であるといえよう。また、会計制度変革期以降、この傾向は年々強まっている。つまり、会計制度変革により、利益の質に対して市場がより重きを置いている可能性があることを示唆する結果となっている。当該論文は査読付きである。 次に「残余利益モデルによる株価の過剰分散制約の検証」では実際の株価変動と残余利益モデルによる理論株価の変動を比較した。もし市場が効率的であれば、前者より後者の方が分散が小さいはずである。なぜならば、理論株価の変動は各会社の期待キャッシュフローの期待値の分散で決定されるのに対して、実際株価の変動は、期待キャッシュフローの実現値で決定されるからである。検証の結果、日本の市場では概ね実際の株価変動の方が理論のそれよりも上回っていることが確認できた。ただし、いわゆるバブル期とネットバブル期においては後者の変動の方が上回っていることが確認できた。つまり、この時期に市場が非効率であったとの検証結果が導かれた。この検証結果は、直感と相違するものではない。つまり、過剰分散制約の検証が市場の効率性の検証として利用可能であることを示唆するものであろう。当該論文は査読付きである
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度には査読付き論文を2本公表することができた。そのうちの一本が「わが国の会計制度改革期における利益の質と個別リスクとの関係について」である。これは証券アナリストジャーナルに掲載されている。証券アナリストジャーナルは広く実務家にも購読されている雑誌であることから、成果を広く世間に知らしめることもできたと考えている。また、会計利益の質をかなり包括的に検証しており、学術的にも十分な貢献があると自負している。 「残余利益モデルによる株価の過剰分散制約の検証」に関しては証券市場の効率性の検証方法として、会計分野ではあまり用いられていない手法を用いたものである。ただ、経済学や金融分野ではしばしば用いられてきた方法を用いているので、発展可能性は十分であり、残りの研究期間により発展させることが可能な業績であると考えている。 さらに、このほかにもリスクに関する実証研究を進めつつ有り、今年度において公表予定の論文を執筆することができた。 よって、昨年度は業績の公表をきちんと行うことができたのみならず、今年度、そして次年度以降の研究の進展につながる布石を打つこともできたと考えている。ただし、予定していた学会での報告について、昨年度は行えていない。もちろん学会発表は論文掲載の絶対条件ではないが、より広い視点から議論を行うために必要であるとは感じている。よって、自己評価としては「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度より開始していた、資本市場において測定されるリスクと会計情報との関連性についての検証は今年度以降も進めていく予定である。その中では資産性や負債性について議論のある勘定科目がリスクという観点から資本市場に資産や負債として認識されているか否かの検証を進めていく。もし会計上の資産が資本市場でも資産としてとらえられていたら、その項目が多く計上されている企業はリスクが低いはずである。そうのような検証をさらに行いたい。また、情報開示の観点からは、情報の非対称性を減少させるとされている開示戦略が実際にリスクを減少させているか否かを検証をさらに進めたい。会計利益の質以外にも、情報開示の質を表すような変数はいくつか提示されている。また、開示戦略自体にも注目されているが、その戦略が実際に意義のあるものか否かの検証はまだまだ進めていく余地があると考えている。 また企業内に抱えるリスクと会計情報の関係も今後進めていく予定である。今年度は企業のリスクマネジメントの一つである内部統制についての検証を進めていく。具体的には、内部統制の決定要因について、事業環境やコーポレートガバナンスとの関係の検証を進めていく予定である。さらに、企業が抱えるリスクやそれに対する対処について、そしてそれらをどのように情報開示していくかについての検証を進めていく予定である。そのかかでは既に進めている内部統制に関する検証があり、順調にいけばそれと同様にアンケート調査による検証も進めていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費としては、昨年度と同様に資本市場に関するデータの購入を考えている。これは、資本市場におけるリスク変数を作成するのには不可欠なデータであり、かつ頻繁な更新を要求される。よって、このデータを確保することは本研究の推進に不可欠である。さらに実証研究を行うにあたり、研究を行うためのソフトウェア(統計ソフト)並びにそれを動かすためのPCも不可欠である。統計ソフトはバージョンアップが頻繁に実施され、それに伴い必要とされるPCのスペックもうなぎ登りであるため、PCの交換も頻繁に行う必要がある。それらにも研究費をさく予定である。 旅費としては、学会や研究会への参加のために使用する予定である。特に、今後この研究課題の成果の一部を英文ジャーナルに投稿する予定でいるが、その前段階として国際学会での報告を考えている。そこでは国内学会に比べて多額の費用を必要とするため、本研究費を使用して渡航を行う予定である。 また、研究の進展具合によっては、さらなるアンケート調査も必要になると考えている。そのためにはアンケート調査に関するアルバイト費が謝金として、郵送調査のための郵送費がその他として必要となる。企業のリスク管理などの情報も開示されていないため、何らかの方法で直接情報収集することが必要である。既に行っているアンケートだけでない調査項目も最近重要になってきたと考えているので、その分あらなた調査を実施したい。その準備のためにアルバイトを雇う予定であり、発送作業やデータの打ち込み作業を任せたいと考えている。
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Research Products
(2 results)