2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23730454
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Research Institution | Osaka Gakuin University |
Principal Investigator |
奥田 真也 大阪学院大学, 流通科学部, 准教授 (40351431)
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Keywords | リスク / 会計情報 / 資本市場 / 内部統制 / 会計情報システム |
Research Abstract |
平成24年度も引き続き、証券市場における企業のリスクと会計情報との関係について検証を行った。証券アナリストジャーナルに掲載された「税効果会計アノマリー : 法人税等調整額と株式リターン予測」においては税金等調整額が市場に正しく評価されていないことを示す証拠を提示した。特に、繰越欠損金を抱えていると想定される企業に関しては、この傾向が顕著であった。この検証結果は、会計情報を市場が評価できていないというリスクの一つの例を提示したと考えている。 次に企業の税務リスクと関連して、企業の税務戦略に関する研究も行い、大阪学院大学流通・経営学論集に「長期カレント実効税率の連単比較」として公表した。当該論文では、連結と単体のカレント実効税率を比較することで、企業のグループ税務戦略を明らかにした。連結と単体、双方のカレント実効税率の規定要因に大きな差は見られなかったものの、カレント実効税率の差を分析したところ、子会社を通じて税務戦略を実施しているとの証拠を見いだせた。 さらに企業のリスクマネジメントに関して、「内部統制システムと監査の質の決定要因」を発表した。この中では内部統制構築の積極性や監査の質が事業構造やコーポレートガバナンスにより決まっていることを明らかにした。 この他に、資本市場に関するリスクとしては、負債コストと繰延税金との関係についての検証を行い、学会報告を行い、会計上の負債と負債コストが正に相関していることが明らかにした。また、会計不正の決定要因についても分析を行った。モデル分析の結果、会計不正を行うのは、生産性を高める努力を行った経営者であり、かつバイアスをかけにくい会計制度にすればするほど、会計不正のリスクが高まることも示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画において、資本市場におけるリスクと、企業のリスクマネジメント双方と会計情報の関連について検証することを目的としていた。資本市場におけるリスクと会計情報の関連について、個別リスクや証券市場の非効率性、負債市場と会計情報の関連の検証を進めることが出来た。従来、会計の資本市場研究であまり注目を集めていなかった概念であるリスクについて、いくつもの視点から取り組んだことで、会計研究において資本市場のリスクに注目することの意義を示せたと考えている。 企業のリスクマネジメントについても、内部統制という昨今話題になっている課題や、会計不正という会計上最大のリスクについて考察を深めることが出来た。これにより、会計不正にどのように対処すべきかという問題の理解を深めることが出来たと考えている。さらに情報システムの統合や税務戦略を企業が実施しているのかについての考察を進めることが出来た。これにより企業の具体的なリスクマネジメントについて理解を深めることが出来た。これらとあわせて、企業を取り巻く多様なリスクと会計情報との関連についての考察を深めることが出来た。 こういった研究を進めた結果、前年度において査読付論文1本、査読無し論文2本を執筆し、学会報告を5回実施した。さらに、今年度既に数回の学会発表を予定している。このように、考察結果が、業績として実りつつあることから研究が成果となりつつあると表して問題ないであろう。よって、現時点での研究はおおむね順調に進展していると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度も積極的に論文執筆を行い、成果を公表する予定である。本報告書執筆時点ですでに学会報告を4回予定している。その中で資本市場におけるリスクとの関連として、個別リスクと経営者予想との関係性についての検証結果を報告する予定である。経営者予想の精度を高めることが、リスクを減少させているか否かについて検討する予定である。この仮説が認められれば、企業のリスクマネジメントにおいて精度の高い情報を公表すればよいとのインプリケーションを導き出せよう。また、ほかの会計情報とリスクとの間にどのような関連があるかについても今後検証を進めていく予定である。 また企業のリスクマネジメントに関連して、内部統制に関する成果も公表予定である。特にERPの導入により、情報システムが統合されつつある。その結果として、内部統制の有効性が増加し、結果として監査や会計情報の有効性が増しているかについて検討する予定である。もし有効性が増しているとの結果が得られれば、企業が情報システムの統合を進める価値について、インプリケーションを与えられるであろう。また、会計情報システムと企業のリスクマネジメントの関連についても今後検証を進める予定である。 さらには会計不正のリスクに関する分析的研究も推進していく予定である。これまでの研究発表で、会計不正とエージェンシー関係についてはさらなる議論が必要であることが分かった。この議論を深化させ、会計不正とエージェンシー関係をさらに深く理解できるようなモデルを構築していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の物品費として、資本市場のデータ購入のために使う予定である。弊校では会計情報のデータベースは充実しているものの、資本市場のデータベースが充実していない。本研究には資本市場のデータベースの存在が必要不可欠であり、そのために物品費を使用する予定である。さらには、実証研究に必要不可欠な統計ソフトについても更新を考えており、そのためにも研究費を利用する予定である。また本研究に必要な書籍についても本研究費からの支出を検討している。 旅費としては、主に出張旅費に使用する予定である。国際学会での報告を本年度も予定しており、研究会にもいくつか出席予定である。さらには企業へのインタビュー調査も本年は予定している。これらの予算は弊校の経常的な経費ではまかないきれないと予想されるので、そのために本研究費を充当する予定である。さらには一部学会参加費に関しても、本研究費から支出予定である。 データ入力の補助のために人件費として本研究費を充当する予定である。データベースには注記情報が含まれていないことがしばしばある。しかしながら、注記情報のように注目しにくいデータに重要な情報内容があったとしても、見つけにくいからこそ資本市場が見逃し結果としてリスクにつながっていると考えている。このため、注記情報の収集も重要なのだが、個人で行うには限界がある。そこで補助のためのバイトをお願いし、一気に大量のデータを入手し、研究に役立てる予定である。
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