2011 Fiscal Year Research-status Report
17-18世紀イギリス東インド会社における会計報告実務の形成に関する研究
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23730460
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Research Institution | Hiroshima University of Economics |
Principal Investigator |
杉田 武志 広島経済大学, 経済学部, 准教授 (80509117)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 会計史 / 財務会計 / 財務報告 / 貸借対照表 / 東インド会社 / イギリス / 歴史 / 財務諸表 |
Research Abstract |
世界最古の株式会社の一つでもあるイギリス東インド会社では、1610年頃に財産有高の報告が行われ、約 1世紀以上も経た1730年代頃から、定期的な会計報告実務が徐々に形成されていく様相がうかがえる。17世紀前半における同社の会計報告は必ずしも定期的に実施されたわけではなく、数年から十数年という間隔で実施されるにすぎなかったのである。その内容もまた、簡単な財産有高が掲載されただけであった。それが、18世紀前半頃から次第に定期的な会計報告が行われ始め、今日的な貸借対照表等に近似したものが作成されるようになる。 そこで、本研究では、現存する会計報告書、会計帳簿に加え、政府、議会史料などに基づき経済的、社会的環境も検討することで、定期的な会計報告実務の形成に影響を及ぼした要因、同社の会計報告実務の形成過程における会計報告の意義の変容、を明らかにすることなどを主たる目的としていた。 研究実施の初年度である平成23年度では、研究テーマの基礎的作業が中心課題となった。基礎的作業として必要となる史料収集、関連文献の購入、文献レビュー及び史料の考察に焦点を置いた。そのため、まずは東インド会社の会計帳簿、議事録など関係史料の多くを所蔵する大英図書館へと複写依頼を行った。17-19世紀の会計報告書が数十種類ほどが所蔵されていることも確認できた。会計帳簿は、元帳、普通仕訳帳を中心に1664-1874年までのものが連続して現存しているため、このうち、検討すべき会計報告書と会計帳簿についてはある程度特定して、大英図書館のHPからオンラインでCD-Rへの複写注文を行い、史料収集に努めた。あわせて、17-18世紀ヨーロッパにおける会計報告の史的研究や当時の株式会社などにおける簿記会計の役割等に関する先行研究のレビューを行うことで、論点の洗い出しも行うとともに、史料の考察も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、現存する会計報告書、会計帳簿に加え、政府、議会史料などに基づき経済的、社会的環境も検討することで、(1)定期的な会計報告実務の形成に影響を及ぼした要因、(2)同社の会計報告実務の形成過程における会計報告の意義の変容、を明らかにすることを主たる目的とする。加えて、個別論点として、(3)会計報告書の報告書のひな型の変遷や作成方法、および(4)借方に負債、貸方に資産が記載されるというイギリス式貸借対照表の生成との関係を明らかにすることも、本研究の目的としている。 これらの目的を明らかにしていく上で、既述のように、研究実施の初年度である平成23年度は、研究テーマの基礎的作業が中心課題となった。基礎的作業として必要となる史料収集、関連文献の購入および文献レビューに焦点を置いたので、まずはイギリス東インド会社の会計帳簿、議事録など関係史料の多くを所蔵する大英図書館へと複写依頼を行った。当初の予定通り、ある程度の史料を入手することができた。未入手の史料等については引き続き収集に努める予定である。 史料の入手後は史料の考察を行ってきた。まず17世紀から18世紀末までの各報告書のひな型、報告内容を個々に抽出して体系的に整理している途中である。もちろん、当時の文字の識別などが容易ではない場合も見受けられるが、ある程度予定通り進められている。さらに、本年度の予定として、先行研究のレビューにも重点を置いており、関連する文献収集も実施した。それから、論点の洗い出しなどをするために、それぞれサーベイを行った。 本研究を効率的に進めていく上で、同じ領域の研究者との意見交換が必要となったので、申請者が所属する神戸大学会計史研究会において、研究の中間報告を実施した。これらも当初の予定にあったものである。以上のように、当初の計画に則って、研究を進めることができていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降も、平成23年度より継続して、本研究の基礎的作業となる、17-18世紀ヨーロッパにおける会計報告の史的研究や当時の株式会社などにおける簿記会計の役割等に関する文献レビューを行う。会計報告の史的展開を示した先行研究などの整理を行うとともに、17-19世紀を対象として会計と資本主義や産業革命との関係に積極的、否定的な論文もレビューし、会計の目的、意義を整理する。なぜならば、本研究では、会計報告書の作成にも焦点を当てており、会計報告と複式簿記との関連を探ることも研究課題の一つであることから、複式簿記の役割、目的にも着目しなければならないと考えているからである。 こうした先行研究のレビューと並行して、これまでに収集した会計に関する史料(財産有高報告書、元帳、仕訳帳等)のうち、会計報告書等については平成23年度に引き続いて、各報告書のひな型、報告内容を個々に抽出して体系的に整理していく。それから、会計帳簿記録との関係を探る。 このような検討に加えて、会社議事録、議会史料、法律の条文なども含め、経済的、社会的背景が同社の意思決定へと与える影響なども総合的に解釈し、定期的な会計報告が形成するに至った要因を検討していくことになる。 他方で、これまでの史料収集に関してはおおむね予定通りであるが、その他文書史料として現地でしか確認できない文書なども見受けられる。大英図書館や、ナショナルアーカイブスなどの史料所蔵場所で直接、史料を確認することも歴史研究にとっては有益であるため、それらもあわせて行う必要がある。したがって、現地に滞在して、史料の確認、整理などを行う予定である。以上のように、今後も、文献レビュー、史料収集、史料批判などを同時に進めていくことで、本研究の目的を明らかにしていく予定である。研究成果については、学術論文として国内外のジャーナルなどへの投稿も考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画としては、主に本研究を進める上で必要なイギリス東インド会社の史料複写に係る費用、及び史料に関する現地ロンドンでの研究調査のための渡航費用があげられる。平成23年度において大英図書館のHPからオンラインでCD-Rへの複写注文を行い、本研究を進める上で必要不可欠な史料(財産有高報告書等、元帳、仕訳帳等)を入手してきたが、平成24年度においても必要な史料を継続して複写依頼する予定である。具体的には、東インド会社の財産有高報告書等の会計報告関係の史料、会計帳簿等、および理事会議事録などである。これらを入手することで、研究課題の検討を進めていく。 ただし、平成23年度に複写依頼を行った史料のほかにも、ロンドンにある大英図書館、ナショナルアーカイブスでしか閲覧できない、あるいはオンライン上複写対象となっていない史料の詳細な情報を整理したリファレンス関連の文書などもある。これらについては、大英図書館のリーディングルーム及びナショナルアーカイブスなどを利用して、資料を直接閲覧し、そこで複写可能なものについては、複写作業を行うとともに、複写禁止のものなどについては、ノートパソコンへの入力作業を行うつもりである。 加えて、現地において、直接史料を確認することで有益な示唆を得ることもある。体系的な史料の所蔵場所では、遠く離れた日本では確認できなかった、同社史料の新たな事実を確認できることも考えられるため、歴史研究を進める上では、直接、史料を閲覧していく作業も重要となる。なお、一連の作業については過去にも経験しているが、17世紀頃の文字を判読すること、ならびに膨大な史料の確認は容易ではないため、少なくとも数日間の滞在が必要となると考えている。
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