2012 Fiscal Year Research-status Report
インドネシア人看護師・介護士に関する研究―インドネシア側の視点を中心に
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23730463
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Research Institution | Hachinohe University |
Principal Investigator |
齊藤 綾美 八戸学院大学, 公私立大学の部局等, 講師 (70431484)
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Keywords | インドネシア / 看護師 / 介護福祉士 |
Research Abstract |
本研究は、EPA(経済連携協定)に基づき来日している、インドネシア人看護士/看護師候補者および、彼ら/彼女らに関わる人びとへの質的調査を通じて、候補者が抱える問題や制度上の課題を、インドネシア人候補者の見方を中心として明らかにしようとするものである。 本年度はとくに、現在日本に滞在するEPA候補者/帰国者にアクセスし、彼らの現状および、帰国後にどのような生活をし、問題を抱えるのかについて調査を行った。具体的には、第一に先行研究の収集および整理を行った。適宜、文献の相互利用などを使ったが、新聞記事等を含めより集中的に文献を収集するため、東京の国立国会図書館でも1度、文献収集をした。第二に、EPA候補者に対して、直接接触し、ヒアリング調査をした。たとえば、むつ市で介護福祉士試験に合格しながらも西ジャワ州に帰国した女性、神戸市および高松市近辺で介護福祉士候補者として研修を受けながらも、試験に合格せず東ジャワ州に帰国した夫婦、三重県と千葉県でそれぞれ介護福祉士候補者として研修しながらやはり試験に合格せず西ジャワ州に帰国したきょうだい、青森県で介護福祉士試験に合格し、就労を続ける女性などに複数回接触し、質的なヒアリング調査およびフォローアップ調査を行った。第三に、送り出し調整機関であるインドネシア海外労働者派遣・保護局の担当者、ジャカルタのビナワン保健大学(インドネシアから医療労働者を海外に多数輩出)の看護学部長、インドネシア大学の移民研究社など、関係者にヒアリング調査を行った。 その結果、従来の研究ではあまり明らかにされてこなかった結果を明らかにすることができた。すなわち、日本で希望をもって就労する合格者がいると同時に、少なからずの帰国者が困難な状況に直面し、日本での経験や看護師・介護福祉士としてのキャリアがほとんど生かされないような職業選択をせざるをえない現状を解明できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度と同様、東北地方ではインドネシア人看護師・介護福祉士候補者の帰国や、他地域への転出等が多くみられ、依然として、候補者・元候補者へのアクセスは容易ではない。彼ら/彼女らは温暖な気候や受入機関の多さなどを理由として、関東地方や西日本により多く偏在しているからである。しかしながら、個人的なネットワークを広げることで、研究を深めることができた。すなわち、インドネシア人看護士・介護福祉士候補者の個人的なネットワーク等を利用して、より多くのインドネシア人候補者に複数回接触し、日本での生活とインドネシアでの生活とのギャップ、直面する問題などについて、事例数は多くないものの、比較的詳細に聞き取ることができた。 その結果、マスコミ等で流布している帰国理由、すなわち家族の問題ゆえに、候補者がインドネシアへ帰国するだけでなく、第二、第三の帰国理由をもつ候補者もいるということが明らかになった。すなわち、制度や施設に対する不満を抱えているがゆえに帰国するのである。あまりにも低い合格率、苛酷な労働、施設での不適切な対応、場合によっては雇用契約に違反するような事例、すなわち、有給休暇の取得を認めないとか、試験の費用を自己負担候補者に強いるなどのケースである。EPA制度下では、候補者側を要請する費用を負担するのが受入施設になっており、受入施設で研修を受け、就労に対する報酬を受け取る。したがって、雇用され、研修を受けている候補者が受入施設に対して、不満を表現できないのが現状である。また、候補者の相談窓口となるJICWELS(国際厚生事業団)も十分な相談業務を行えていない。 成果論文は既に査読結果が出ており、「東北都市学会年報」に掲載確定であるが、ページが確定していないため、今回の報告書には記載できなかった。次年度の成果報告書に掲載予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も本年度と同様、個人的なネットワークを拡げつつ、主に次の諸点を中心として研究を推進する。前年度から継続する事項は主に三点である。第一に、インドネシア看護師・介護福祉士に関する文献調査である。とくに近年、日本語教育や看護関係者など、EPA候補者に直接接する人々からの発言が多くみられる。専門分野は異なるものの、これらについてもフォローする。第二に、看護師・介護福祉士候補者へのヒアリング調査である。これまで接した何人かの候補者/元候補者に再度ヒアリングを実施するとともに、新規の候補者に接触する。候補者を辞め、日本の自動車工場で就労していた元候補者や、合格後に再入国し、別の高齢者施設で就労する予定の候補者などへのヒアリングを計画している。 第三に、研究成果を論文化する。現在、既に一本が査読を終えている段階であり(『東北都市学会年報』、査読論文)、さらにもう一本の論文を執筆している。これ以外にも、調査結果を順次整理し、とりまとめる。 本年度新規に行うことを予定しているのは、次の二点である。第一に、インドネシア・ジャカルタの看護学校(ビナワン保健大学)で看護学生に対するヒアリングを実施する。昨年2月に学部長に接触し、学部長に対するヒアリングのみを実施し、看護学生へのヒアリングの約束をとりつけている。具体的には8月~9月にインドネシアへ渡航し数十名の看護学生を対象として、外国に渡航しようとする動機、希望する渡航先、日本に対する印象などについてのヒアリングを行う。第二に、3年間の研究を踏まえ、インドネシア大学社会政治学部国際関係学科の協力を得、関係者を呼んで2月に小規模なワークショップを開催する。ワークショップを通じて、本研究に対するインドネシア人研究者の評価・意見・関連情報の収集、ネットワークの拡大をはかる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費も本年度と同様、おもに旅費および調査許可に関連する費用(その他)が主な支出項目である。とくに8月~9月に予定している、インドネシア・東ジャカルタ市のビナワン保健大学看護学部へのヒアリングのための滞在費として主に使用する。ヒアリングに際してインドネシア大学国際関係学部大学院生兼研究員の女性を同行させるため(時給5万ルピア)、謝金の一部としても使用する予定である。また、前述の、合格後に帰国し再入国して別施設で就労を予定しているインドネシア人介護士の就労先が広島県である。この女性に対して、電話等でも接触するものの、対面して、ヒアリング調査を1度行う予定である。また、むつ市に滞在する介護士候補者にもヒアリングを実施する。さらに2014年2月にインドネシア大学でワークショップを開催し、またその前後に看護師・介護士候補者へのフォローアップ調査を行う予定である。これらを実施するための旅費としても使用する。 これに加えて、ウェイトは低いものの、インドネシア人看護師・介護福祉士候補者に関する文献資料の収集(購入、コピーを含む)のために、7万円を予定している。研究費の不足分は、個人負担で賄う。
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Research Products
(1 results)