2011 Fiscal Year Research-status Report
在宅介護サービスの日英比較:自律的なケア関係を支える制度的条件
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23730467
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
山根 純佳 山形大学, 人文学部, 講師 (80581636)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | イギリス |
Research Abstract |
山根純佳(2011)「ケア労働の分業と階層性の再編――「『関係的ケア』から周辺化される労働」(仁平典宏・山下順子編『労働再審5 ケア・協働・アンペイドワーク』大月書店, pp.103-126)においては,「関係的ケア」と,そこから周辺化される労働について,4つの介護施設における厨房業務を事例に考察した.本論では,介護を,生産労働と対置された「再生産労働」としてとらえ,再生産労働のなかで,対人サービスである「関係的ケア」とそこから周辺化された労働の分業が起きていることを明らかにした.本論がもつ本研究における意義とは、「関係的ケア」の特徴を、受け手との感情的関わりのなかでニーズに応答していく労働であり、ケアの担い手に一定の裁量があること、また精神的やりがいと、精神的、身体的負担の双方を含むものとして概念化したことにある。こうした関係的ケアの特徴が、ケアの担い手が責任を抱え込み過剰な労働に巻き込まれていく要因となっている。一定のニーズに応えつつも、ケアプランや時間の限定などにの制度的制約によって、ケアの与え手の裁量を限定することが、責任と労働の抱え込みを防ぐ策となると考えられる。山根純佳『現代社会学事典』弘文堂(近刊)「リベラル・フェミニズム」の項では、フェミニズムの課題に対するリベラリズムの公私の区分の問題点として、ケア関係における行為者間の規範についてとりあげた。ケア関係をめぐっては、従来の自立や権利概念を見直し、「依存関係における自律」のあり方について検討していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は5月中旬までの産後休暇,5月下旬~9月下旬までの育児休業のため、当初の期間の半分しか研究に従事することができなかった。それにより研究の進捗状況はやや遅れているが、今後の調査のための概念的な分析を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
A) 日本においては、介護保険事業所におけるケアプランのある保険内サービスと保険外サービスにおける労働条件の違いについて考察する。介護保険外の家事代行サービスにおける聞き取り調査をおこない、ケアプランのある介護保険のヘルパーの労働条件との比較をおこなう。この調査では介護だけでなく、育児も含めた家事代行サービスのヘルパーの属性や労働への意味づけについても分析に加える。また、4月からはじまった介護保険の「定期巡回・随時対応サービス」を開始した地域におけるヘルパーの労働条件等について実態を調査する。B)イギリスにおけるケアの個人化に関する先行研究レビューと調査をおこなう。当初8月に渡英を予定していたが、ロンドンオリンピックのため航空券の獲得が困難と考えられ、渡英を3月に延期する。C)8月の渡英の代わりに、家事サービスの利用に対し政府が税控除によって半額を還付するスウェーデンのRUTの制度についてスウェーデンで調査を行う予定である。RUTは当初、利用者が直接労働者に賃金を支払う形式であったが、2009年から事業者への支払いに変更された。よって賃金の支払い形態は介護保険制度と同じであるが、ケアプランがない自由な利用が可能となっている。また、RUT利用者は、子育て世帯にも多いことから介護に加えて育児も含めて、この制度のもとでの利用者と労働者の関係や労働条件について可能な限り聞き取りを進める予定である。これらの調査全体をとおして、介護保険制度におけるヘルパーの働き方と、家事代行サービスやケアプランのない介護サービスなどのヘルパーの働き方についての比較検討をおこなう予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後の研究A)は、図書購入5万、資料印刷費5万、首都圏への調査旅費8万円を必要とする。今後の研究B)については図書購入に10万円、資料印刷代に5万、調査旅費に20万円を必要とする。以上については、当初の予算計画に含まれている。育児休業に伴う半年間の研究の休止によって今年度使用額が変更されている点について、C)の調査に、通訳等人件費5万円、資料印刷代等に5万、調査旅費20万円を計上する。
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