2012 Fiscal Year Research-status Report
在宅介護サービスの日英比較:自律的なケア関係を支える制度的条件
Project/Area Number |
23730467
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
山根 純佳 山形大学, 人文学部, 准教授 (80581636)
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Keywords | 国際情報交換 イギリス |
Research Abstract |
当該年度の研究成果は、以下の4点にまとめられている。①山根純佳, 2012,「ケア労働としての食事づくり」『現代と保育』第84号, 57-67頁。②山根純佳, 2012「書評 後藤澄江著『ケア労働の配分と協働―高齢者介護と育児の福祉社会学』東京大学出版会『日本労働研究雑誌』第630号, 108-110頁。③山根純佳2012, 「ケアワークのジェンダー平等と公共性」盛山和夫・上野千鶴子・武川正吾編『公共社会学2 少子高齢化社会の公共性』東京大学出版会, 129-147頁④山根純佳, 2013, 「ケアと労働」『よくわかるジェンダー・スタディーズ』ミネルヴァ書房. ①では、介護サービスにおける食事づくりを事例に、厨房職員がケア労働者として利用者とのコミュニケーションと仕事への裁量をもつことの重要性を指摘し、ケア事業(保育、介護)における食事の外注化がケアの質に与える影響について考察した。②は書評のため省略する。③では、ジェンダー平等の指標としてケアワークにおけるジェンダー構成や労働条件を加える必要性について、国際的なデータを用いて論じた。④では、物質的労働と感情的労働としてのケア労働の固有性をふまえ、ケア労働の評価をあげていく必要性について論じた。 また、イギリスにおけるケアの個人化の実態把握として、The 2nd International Conference on Evidence-based Policy in Long-term Careに参加し、情報収集、意見交換をおこなった。日本では、非営利事業体における介護保険外サービスにおけるサービス供給の実態について、介護保険制度以前から、「自立援助サービス」として介護保険外サービスを実施している非営利事業所での聞き取り調査をすすめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、おおむね順調に進展しているといえる。当該年度は、日本における民間非営利介護サービス事業所への聞き取り調査から以下の点を明らかにした。介護保険外サービスの提供をつづけているワーカーズ・コレクティブでは、①「保険外サービス」は、介護保険制度の制約で利用できないサービスを補完する役割を担っている、②ただし、個々のワーカーが利用者ニーズに対して無制限に応えるものではなく、家族の住居部分の家事はしない、大掃除はしない、など事業所単位でサービスの範囲を指定し、それに従ったサービス提供をおこなうため、ワーカーの自律性が一定程度保たれている。③ケアワーカーが現場での問題事項を検討する会議を事業所単位でおこなうことで、ケアにおける問題を共有し解決する方法が担保されている。以上の点から、ワーカーズ・コレクティブでは、制度に制約されないサービス提供による利用者ニーズへの対応と、事業所単位でのサービス内容の規定による仕事の限定(ワーカーの自律性)の両者が保障されていることがわかった。また、「保険外サービス」の内容については、「家事(大掃除)」や「お話」など利用者のニーズに沿った対応が可能なものとなっていることからも、非営利事業所の保険外サービスが制度外のニーズに応えうる機能を果たしていることが明らかになった。これらの実践は、本研究の課題である「自律的なケア関係」を相対的に維持している事例として位置づけられる。今後は、自律的なケア関係を支えている事業所運営の条件を特定するために調査を継続していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向として以下の3点があげられる。 ① これまでおこなってきたワーカーズ・コレクティブの調査をさらに進め、ケアワーカーが、介護保険外サービスをどのように評価しているのか、会議における問題共有や自主運営の理念が、ケアワーカーの労働評価にどのような影響を与えているのかを聞き取り調査をとおして明らかにする。すでに関係を構築している事業所では、定例会などの会議への参加と参与観察、ケアワーカーへの聞き取り調査やアンケート調査を予定している。 ②介護保険制度の制約を受けないが同様のサービスを提供しており、またより孤独な労働と考えられる家政婦労働の実態を明らかにするために、事業所調査と家政婦労働者の聞き取り調査をすすめ、介護保険制度サービスの労働との比較をおこなう。具体的には家政婦業のサービス利用者の属性、サービス内容、特に介護保険制度内の「ケア」とどのような関係にあるのか、利用者や家族との関係性、労働条件への評価などについて聞き取り調査をおこなう。①②については、ケアワークをめぐる先行研究のレビューも同時並行で進める。③イギリスの状況をめぐっては、非営利事業所の労働に焦点を絞り、日本の非営利事業所との比較をおこなう。パーソナル・アシスタントにおける労働の実態について、ニーズへの応答とケアワーカーの自律性という点から聞き取り調査をとおして明らかにする。また聞き取り調査が困難な場合にはアンケート調査でデータを集めることも予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
①の ワーカーズ・コレクティブ調査ではひきつづき首都圏での事業所への聞き取り調査をおこなうため、4事業所への2回の訪問と補足調査のために計10回の調査旅費を計上する。家政婦事業所調査では、①との比較からも首都圏での調査をおこなうため、3回の調査旅費を必要とする。①と②のテーマについては、11月におこなわれる労働社会学会のシンポジウムでの発表を予定しているため、先行研究の検討のための社会政策論関係の書籍、文献コピー代、調査方法や分析をめぐる書籍代、発表準備のための印刷代、旅費等を計上する。③イギリスのケアの個人化政策下でのケアワーカーの自律性については、先行研究の調査のための書籍代、事業所への聞き取り調査(4日間)の渡英旅費を計上する。また以上の3つの課題にわたって、調査の実施、分析のために、パソコンソフトの購入や印刷代、文房具購入等の諸費用を必要とする。
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