2013 Fiscal Year Research-status Report
在宅介護サービスの日英比較:自律的なケア関係を支える制度的条件
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23730467
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
山根 純佳 山形大学, 人文学部, 准教授 (80581636)
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Keywords | ホームヘルプ労働 / 介護保険制度 / 国際比較 |
Research Abstract |
本年度は、日本、イギリスでの調査を実施し、データをインプットすることができた。まず日本では、東京のNPOとの共同で、ホームヘルパーに対する聞き取り調査(グループインタビュー含む22名、12ケース)、アンケート調査(827票、回収率63%)を実施した。聞き取り調査では介護保険制度の改変によりケアが短時間化し利用者との関係性の構築が限定になっていること、またホームヘルパーが利用者ニーズとケアプランのあいだで板挟みになっている状況について明らかになった。アンケート調査では、介護保険サービスとNPOの独自サービスとの比較をとおして介護保険サービスでの労働強化がすすんでいること等が明らかになった。また、生活援助サービスの業務が短時間での効率性を求められる一方、生活援助サービスの専門性として、チームでケアに入り利用者のようすや変化を察知し、職場内での意見交換をとおして次の支援のあり方を決めて行く即応性と柔軟なケアのあり方に求められている。現状の生活援助の単価は、こうした専門性を評価しておらず掃除や調理という「業務」だけからサービス内容を評価している。また、2015年度以降要支援が介護保険サービスから切り離され地域支援事業に移行することに伴い、ますます生活援助サービスの低価格化がすすむことが予想される。本研究では、現場のヘルパーたちの実践の意義について報告をまとめ学術的、社会的関心を高めていきたい。イギリスでの調査では、Age UKのロンドン、ブリストルで聞き取り調査、ブリストル市役所での聞き取り調査を実施した。1990年代から家事サービスが公的サービスから切り離され、ボランティアに委ねられているという状況について詳細な聞き取りをおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の介護保険制度下のホームヘルプ労働の変化について、827票のアンケート調査も含めたデータから明らかにできたことが今年度の大きな進展である。聞き取り調査では、介護保険制度においてケアプランが利用者ニーズとのあいだでの制約になる一方で、保険外の独自サービスにおいても一定のプランがあることがヘルパーに一定の働きやすさを担保していることが明らかになった。「利用者ニーズにすべて応える」ということは一方で利用者ニーズに「振り回される」ことにもなるし、利用者の生活の自立という点からも忌避されている。また現在の45分の生活援助サービスでは家事を十分に遂行することができない一方で、2時間の掃除業務などもホームヘルパーにとっては負担と感じられる側面がある。利用者ニーズをある程度反映させつつ利用者の生活の自立等の理念に適合させた「プラン」を設定したうえで、ヘルパーに一定の裁量を与えることが、利用者、ホームヘルパー双方にとって満足のいく関係を担保する。以上の点から、本研究の目的である利用者とヘルパーの「自律的な関係」を支える条件を一定程度明らかにできた。 一方でイギリスにおけるホームヘルプサービスについては、ヘルパーへの直接の調査ができておらず、ケアサービス市場の全体像を把握するにとどまっている。残された年度は、イギリスでの調査の計画実施を実現させる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
すでにこれまでの調査の分析結果については、第25回日本労働社会学会大会(東北福祉大学)シンポジウムで報告の他、『日本労働社会学会年報第25号』に特集論文として掲載予定、第128回社会政策学会大会自由報告で発表、International Sociological Association World Congress of Sociology 2013 in Yokohamaにて、“The Uneven Structure of Home Care Service Provision Between for-Profit and Non-Profit Organizations in a Quasi-Market System”として報告予定である。日本における調査について今後、調査データのまとめ、報告書の作成、論文執筆をすすめていく予定である。 本研究の当初の課題から発展した問いとして、保険内、保険外サービスの「家事サービス」を担っているNPO事業所が、「家事」も「ケア」のひとつとして位置づけ、その専門性を身体介護と区別せずに評価している点について考察をすすめていく予定である。介護保険制度では、ホームヘルプ労働の単位は「身体介護」「生活援助」という「業務」として基準化され、実際に現場でヘルパーがおこなっている利用者との相互行為をとおした健康状態の把握や心身の状態の変化への対応といった「専門性」を評価するにいたっていない。さらに家事サービスが主である「要支援」については、介護保険制度から切り離し地域支援事業へと移行させようとしている。これは現場が対人的で専門性の必要な「ケア」として実践してきたサービスが、「誰にでもできる労働」として価値下げされることを意味している。こうした現状に照らして、政策的に揺れ動く「ケアの境界」と現場での実践の乖離状況について分析をおこなっていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
データの収集(旅費)に多くの時間を費やしたため、物品費に関しては書籍、文房具の購入がすすまなかったことが理由としてあげられる。 次期は、関連する文献の購入にあてることにする。
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