2014 Fiscal Year Research-status Report
在宅介護サービスの日英比較:自律的なケア関係を支える制度的条件
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23730467
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
山根 純佳 山形大学, 人文学部, 准教授 (80581636)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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Keywords | ケア / 介護保険制度 / ホームヘルプサービス / 準市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は,本科研費事業でおこなった調査のデータ分析をもとに,以下の3つの研究実績を残した.まず①「介護系NPOの独自サービスをめぐる戦略」(社会政策学会第128回大会)では,介護保険外の独自サービスを低価格で担ってきたNPOへの調査から,この10年間のサービス内容と価格の変化を考察した.NPO事業所においてもケアの均質化が進んだことで,独自サービスと介護保険サービスの「質的差異」が明確ではなくなった.その結果独自サービスが介護保険の「量的補完」と位置づけられサービス価格も上がってきている.一方で独自サービスの価格が利用者の利益を考慮して低価格に設定されている点で,市民活動(非営利セクター)の収入が,営利事業所よりも下回る状況に変化は起きていない. ②”The Uneven Structure of Home Care Service Provision Between For-Profit and Non-Profit Organizations in a Quasi-Market System” at the International Sociological Association World Congress of Sociology 2014 in Yokohamaでは,準市場において利用者の選択をとおして効率性や競争が達成されるとする準市場の理論に対し,①でみたような安価なサービスを主体的に選択するNPOの利他主義を前提にすれば,準市場では競争ではなく「動機の差異による分業」が起こることを論じた. ③「介護保険下におけるホームヘルプ労働の変化ーー『業務化」する個別ケアの現場」(『日本労働社会学会年報』第25号)では,独自サービスとの比較から近年の短時間化がすすむ在宅介護サービスの労働の変化を考察した.介護保険サービスでは,利用者とのコミュニケーションや感情的なかかわりも限定される「業務化」が起きているが,ホームヘルプサービスという「個別ケア」においては利用者ニーズと制度的制約のあいだでのジレンマによって労働者に負荷がかかっていることを明かにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はホームヘルプサービスにおいて,利用者ーケア提供者がより自律的な関係を結ぶことができる制度的条件について,特にケア提供者の裁量を制度との関係から考察することにある.イギリスで一部取り入れられている、ダイレクト・ペイメント(利用者への現金給付方式)は,サービス時間の長時間化、柔軟化によって、ニーズが即時的にケア内容に反映されケア提供者にやりがいを与えている一方、サービス残業の増大や賃金の低下を招いていると指摘されてきた. それに対し日本の介護保険制度の下でのサービスは,①公定価格の下で事業者の参入を認める準市場である点,②ケアプランによってサービスの質量が決まっているという点で制度的制約が課されている.本研究では,ケア提供者への聞き取り調査,アンケート調査をとおして,介護保険制度開始から13年間で,短時間のうちに限られた業務をこなす「業務化」がホームヘルプサービスの場で進んでいることを明らかにしてきた.しかし利用者の自宅で生活を支えるホームヘルプサービスは,利用者の個別ニーズに応えるという意味で「個別ケア」であることに変わりはない.このような「個別ケア」における業務化はケア提供者に,一方でプラン内の業務遂行を要求する雇用者からの管理によるストレスと,他方でニーズを要求する利用者を満足させることができないストレスを与えている.ただし本調査では,ケアプランという制度的制約は,業務を限定するという点でケア提供者の労働条件を守るという効果があることもわかった. 以上の分析から,利用者による直接雇用という形をとるよりも,制度によって業務内容を特定しつつ,利用者の個別ニーズに応える裁量を一定程度与えることがケア提供者の裁量と労働条件の確保につながることが明かになった.その点で本研究が当初目的としていた「自律的なケア関係」を支える制度的条件について一定の解答を得ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査の追跡調査として2014年度より介護保険サービスから市町村の地域支援事業に移行した「要支援」利用者対象の在宅介護サービス(主に家事サービス)について担い手の事業者への聞き取り調査をおこなう.特に,地域支援事業のサービス価格,賃金,利用者との関係,裁量において,介護保険サービスとの相違を検討する.またどのような内容のサービスが,地域支援事業に移行したのかを分析し,家事サービスの対価の低価格化がすすんでいないかを検討する. 今回の介護保険の改正により市町村事業となったサービスは,準市場の介護保険サービスの周辺に位置づけられることになる.ではこの周辺化されたサービスは「市場化」されたことを意味するのか,ボランティアセクターへの移行を意味するのか,政策によってつくられた「二重の市場」の意味を理論的に考察する. イギリスについてはイングランドを中心に1990年代以降の家事サービスの変化を政策資料をもとにまとめ,自治体(公共サービス)/家族/営利/非営利住民サービスのあいだでの介護サービスの分業のあり方について検討し,日本とイギリスに共通する準市場サービスモデルの課題について検討する.以上の研究成果については,今年度内に発表できるよう紀要論文等に投稿する予定である. また平成25年度におこなった調査データをもとにして,山根純佳・NPO ACT「(仮題)ワーカーズ・コレクティブがつくるケア――介護保険14年目の介護サービスの展開と課題」を発行する予定である.
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Causes of Carryover |
平成26年度は産前産後休業(9月15日~12月21日)と育児休業(12月22日~2月28日)取得のため,計画どおりに研究を進めることができなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は,ホームヘルプ事業所への追跡調査に旅費として10~20万円使用する.その他報告書の印刷に10万円,論文投稿のための資料収集のための旅費,資料印刷代に20万円,その他図書購入費に30万円~40万円をあてる.
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