2011 Fiscal Year Research-status Report
契約社員・派遣社員の技能形成とキャリアラダーおよび有期雇用政策に関する実証研究
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23730473
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
西野 史子 一橋大学, 社会(科)学研究科, 准教授 (40386652)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 若年労働者 / 有期契約雇用 / キャリアラダー / 技能形成 / 社会関係資本 |
Research Abstract |
本研究は、若年有期契約労働者の技能形成とキャリアラダーについて、企業側と労働者側の双方のインセンティブ構造と行為を、実証的に明らかにするものである。本研究では若年有期契約労働者のなかでも、労働時間が長く、正社員への移行を希望する者の多い、契約社員と派遣社員を対象とする。 平成23年度は平成24年度に行う調査の準備段階として、契約社員と派遣社員の1職務内容と技能形成、2キャリアラダーと正社員への移行に関して、労働経済学や教育社会学の分野で提出された研究成果について検討した。なかでも重要な研究である鶴光太郎・樋口美雄・水町勇一郎著『非正規雇用改革』では、不本意型非正規雇用で心身のストレス度合いが高いこと、先送り行動の傾向が有る人ほど派遣労働者になりやすいことなどがマクロデータにより明らかにされた。また正社員への移行について、派遣労働は欧米のように正社員への足がかりとはなっておらず、派遣労働者とパート・アルバイトとを比較すると後者のほうが正社員に移行する割合が高いことがマクロデータにより明らかにされた。 しかしこれらの研究は、派遣労働自体の数の少なさ、派遣労働者における既婚女性の割合の高さといった属性の偏りを考慮しておらず、相関関係と因果関係とを見誤っているケースが多々見られた。また派遣労働の労働法的な枠組みや制度的な要因、個々のアクターの選択行動における運用上の制約などのミクロの要因なども分析の外に置かれており、これらの要素を包括した実証研究こそが、必要であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度には契約社員に関する文献研究と聞取り調査を行い、平成24年度に派遣労働に関する文献研究と聞取り調査を行う予定であった。しかし平成23年度内に派遣労働に関する研究成果が多数提出され、また有期契約労働法政策に関する進展もあったため、予定を変更して平成23年度は契約社員と派遣社員に関する文献研究を包括的に行った。そのうえで、契約社員に関する聞き取り調査を平成24年度に実施することにした。そのため現在の達成度としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、下記の手順で研究を推進する。なお、聞き取り調査については事前にパイロット調査を行い、調査票の検討を行いながら、事例数を蓄積していく。1.若年有期契約労働者の技能形成とキャリアラダーに関する文献研究:引き続き、契約社員・派遣社員の技能形成と正社員化に関する文献研究を進める。2.契約社員の技能形成とキャリアラダーに関する実証研究:契約社員を雇用する企業人事部に対する聞取り調査:事務職・サービス職の契約社員を積極的に活用している企業2社に対し、人事部への聞取り調査を行う。職務内容、活用方針と育成の方法、処遇、正社員への登用制度の有無について聞き取る。3.派遣社員(登録型事務職)の技能形成とキャリアラダーに関する実証研究:(1)業界団体及び派遣会社への聞取り:間接雇用という特殊性を持つ派遣社員(登録型事務職)について、技能形成と正社員への移行について調査を行う。(2)派遣社員本人への聞取り:派遣社員5名、派遣社員から正社員(または直接雇用)に転換した者5名への聞取りを行い、経歴、職務内容ほか、社会関係資本に関する項目について聞き取る。正社員に移行した者には、現在の職務内容と労働条件等について聞き取る。4.契約社員・派遣社員と正社員との均衡処遇及び正社員/非正社員関係の再検討:聞取り調査の結果を踏まえ、契約社員・派遣社員から正規雇用への転換の実態、有期雇用に留まる場合の生活基盤、正社員との均衡処遇、有期契約労働法制について、労働者、企業、政府等の多角的な視点から検討し、そのジレンマについて明らかにする。5.研究の総括・成果報告:上記の研究成果をまとめて随時ディスカッションペーパー、研究論文として公表していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額(未使用額)が発生した理由は、平成24年度に行う予定であった文献研究を平成23年度に先取りして行い、平成23年度に予定していた聞取り調査を平成24年度に先送りしたためである。その理由は、平成23年度内に派遣労働に関する研究成果が多数提出され、また有期契約労働法政策に関する進展があったためである。 よって、次年度使用額(未使用額)と平成24年度の聞き取り調査用の経費を合わせて、平成24年度の聞き取り調査を実施する予定である。
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