2011 Fiscal Year Research-status Report
生態系サービス評価の環境社会学的再検討―環境正義概念と浜名湖の事例研究から
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23730477
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
富田 涼都 静岡大学, 農学部, 助教 (20568274)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 環境社会学 / 生態系サービス / 環境正義 / 浜名湖 / 環境政策 / 資源管理 |
Research Abstract |
本研究では「誰が」生態系サービスを享受するべきかなどの生態系サービスに関して環境正義の観点から公正な評価をするために、生態系サービスの媒介プロセスと分配プロセスの動態についての浜名湖の社会調査を進めた。具体的には、観光や漁業振興、祭礼などについての生態系サービスの媒介プロセスと分配プロセスについて、資料調査及び聞き取り調査を進めた。その結果、浜名湖内でもエリアによって媒介プロセスの歴史的変遷の様相が異なることが示唆されたほか、分配プロセスにおいても漁業者と観光業、自然保護団体などの違いだけでなく、特に漁業者間でも経済的・政治的な関係の違いやそれにともなう分配サービスへの関与の違いなども示唆された。この分配プロセスについては、ローカルな地域内、浜名湖流域、静岡県域、日本全国、国家間レベルという入れ子構造の存在も浮かび上がってきた。一方、理論研究においても、それが社会学だけでなく、倫理学、民俗学、歴史学、資源管理学などの分野に分散して行われているため、まずは分散した既往の知見や概念の検証による生態系サービスの享受という統合的な枠組みの構築を行うための理論的な検討を進めた。これらの社会調査および理論研究を通じて、享受できる生態系サービスの豊かさは、社会的な媒介プロセスの多様さと、生態系の豊かさ(生物多様性)の関数として見ることができることが示唆された。また、「誰が」生態系サービスを享受するべきかという問題を実証的な検証を推進するために、従来の環境社会学、環境倫理学、民俗学、歴史学、資源管理学、保全生態学などの分野に分散して行われてきた研究の蓄積を統合的に調査分析し、かつ従来の国連生態系サービス評価に代わる新たなモデルを考察し得る基礎的なプラットホーム構築に必要な基礎的な知見や資料などを発掘し得たと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「生態系サービス」概念による議論の蓄積はここ15年ほどに限られ、社会学的な検討がほとんどされていないことや、従来の知見や資料は、生態系サービスの享受という統合的な枠組みには別に社会学だけでなく、環境倫理学、民俗学、歴史学、資源管理学、保全生態学などの分野に分散して行われているため、まずはそれを統合的に調査分析し、かつ考察し得る基礎的なプラットホーム構築が必要になる。それに対して、本研究では理論調査を進めることができたほか、現地のNPOや行政機関などと協力して、浜名湖における多様な生態系サービスの享受の一環である舘山寺温泉や弁天島周辺の観光業や漁業や行政による漁業振興活動、流域保全にかかわる環境教育関連についての実態調査を進められた点は大きい。また、特に資料調査において、各エリアや分野に拡散していた浜名湖の生態系サービス享受に関する資料を収集、分析を進めることができた。さらに、これらの社会調査についても、数回にわたってワークショップなどの参加者や関係者にも調査の知見がフィードバックできる参加型で行うことができたことは、本研究において構想した「win-win」の関係での新たな調査研究手法の開発にもつながっている。こうした研究成果については、環境社会学会や日本生態学会を中心とする学会発表を中心に公表を行い、議論を深めてきた。一方で、浜名湖内の主要産業である漁業そのものについては、資料(特に統計資料の不備)などの制約があるほか、浜名湖内の各エリアごとの社会及び生態系の状況の違いなども具体的に明らかになってきたため、その点の分析と整理や、インテンシヴな聞き取り調査の展開については、今後の課題となった。以上から、課題点はあるものの本研究は着実に進展を見せていると考えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に引き続き、社会学だけでなく環境倫理学、民俗学、歴史学、資源管理学、保全生態学などの分野に拡散していた理論や調査結果を統合的に調査分析し、特に前年度の課題となった浜名湖内の主要産業である漁業そのものについて、歴史的な経過にもとづきより客観的な情報をあつめることや、インテンシヴな聞き取り調査など詳細な調査の展開を行う必要がある。そのうえで、最終年度の今年は研究成果を取りまとめ、政策提言などに活かしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
特に前年度の課題となった浜名湖内の主要産業である漁業そのものについて、累年的な資料(特に統計などの客観的資料)の分析や浜名湖内の各エリアごとの社会及び生態系の状況の違いなどを具体的に踏まえたインテンシヴな聞き取り調査の展開を行う必要がある。これらに関しては、前年度からの研究協力体制が浜名漁業協同組合と構築できつつあるため、その協力体制を発展させる形で調査を進めていく。年度の後半には成果をまとめるための作業に着手する。理論研究の成果とフィールド研究の成果を合わせて、サブサイトである霞ヶ浦や三方五湖での研究蓄積などを活かしながら、浜名湖における環境正義を考慮した生態系サービス評価を行い、政策提言可能なモデルを構築する。また、この時期には、2010 年の生物多様性条約COP10 で新たに決められる10 年目標と連動した日本国内外での生態系サービスの評価の更新、特に、サブグローバル評価(SGA)といわれる日本の地方レベルの評価や、よりローカルな評価の枠組みが議論されていると考えられるため、「浜名湖モデル」をもとにした政策提言を行い、国内・国際社会へのより広い貢献を目指す。なお、次年度に使用する研究費が2688円存在するが、これは調査旅費や資料収集の費用の端数として生じたもので、今年度についても社会調査費用として使用する。
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Research Products
(7 results)