2011 Fiscal Year Research-status Report
自己決定にかかわる支援における偶有性とそれを活かす組織についての実証的研究
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23730497
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
三井 さよ 法政大学, 社会学部, 准教授 (00386327)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 支援 / 固有性 / 組織 / 偶有性 |
Research Abstract |
今年度は、多摩地域の知的障害者支援活動については、昨年度から引き続いての参与観察を行った。総合福祉法をめぐる政治的な動きや、自立支援法下で制度的な細かい変更点が現場に大きく影響を与えるさまなどを知ることができた。また、自立生活を新たにスタートする当事者が複数名いたことから、まだ日の浅い支援者たちが、当事者とのかかわり方や支援に関する考え方を大きく変えていく様子を知ることもできた。 さらに、都内での知的障害者支援活動団体が相互に交流する場を運営することによって、多摩地域で長くかかわってきた団体のみならず、他の団体の支援体制や組織作りについて学ぶ機会を得た。その中から見えてきたのは、それぞれの団体は、地域の特色や、支援者の個性、何より当事者との関係のありようによって、それぞれ異なる支援体制や組織作りを行ってきており、多摩地域での団体とは異なるありようもあることだった。さらにいえば、同じような思想や発想を共通基盤としており、最終的に直面する課題の数々は似てくることも確認できた。そして、相違点については、クリティカルな局面への対応の仕方や考え方の違いであることが明確になってきた。ほとんど同じような思想を持っていても、ある局面への対応が異なることから、支援体制や組織作りも違ってくるのである。 もうひとつ、今年度は否応なく東日本大震災での支援活動にもかかわったが、そこでも本研究課題と同じような課題があることがわかった。レスキュー段階はもちろんだが、中長期的支援段階に入ると、各団体間の連絡調整が大きな課題となる。その中で組織づくりを模索する団体を側面支援することによって、本研究課題を問うための調査研究として位置づけられるような知見も得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多摩地域での知的障害者支援に関する参与観察や、東京都内での知的障害者支援団体に関する調査研究は、おおむね順調に進展している。東京都内での知的障害者支援団体には、昨年度は交流の場が特になく、個々の支援者だけのネットワークが主だったのが、小さい場とはいえ、交流の場を作ることができた。そこから、さらに多摩地域の支援活動を相対化して捉え、そこでなされている工夫の意味を問い直すことが可能になっている。また、多摩地域での参与観察も続けており、長く付き合うことによって新たに見えてきた局面も多々ある。 そして、意図していたわけではないが、東日本大震災での支援活動にかかわることによって、知的障害者支援とは大きく異なるフェーズを持ちながら、ある種の共通性も有する別の場においても、本研究に関する重要な知見を得られた。 ただし、そのようにフィールドが拡大することによって、今年度は理論化や文章化が遅れ、研究発表が限られてしまったことも否定できない。そのため、予定より進んでいるとも言い難く、おおむね順調だと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究上の大きな課題は、これまで得られた知見の理論化である。 知的障害者支援団体の支援体制や組織作りに多様性があること、そしてその背景にはいくつかの重要な局面における判断の違いがあることが見えてきた。具体的には、知的障害当事者の健康に関する問題や、近隣住民とのトラブルについて、どのように捉え、どのように取り組むかによって、支援体制や組織作りの違いも生まれてくるようである(もちろん、それに加えて、支援者側の人数や個性などの事情も大きくかかわっているが)。 このことは言いかえれば、支援体制や組織作りには、単に当事者個人の支援というだけでなく、排除や差別・偏見の問題をどう捉えるかが深くかかわっているということでもある。そのため、こうした支援体制や組織作りを捉えかえすためには、支援論やケア論だけでなく、排除論や差別論の研究も必要であり、さらにいえば、地域社会をどのように考えるか、あるいは社会連帯をどう考えるかという課題にも取り組まなくてはならない。理論的な課題は多々残されている。 そして、それを考える上で、被災地支援の現場はひとつの重要な参照例となるであろう。レスキュー段階は「みんなが被災者」だが、中・長期的支援段階になれば、徐々に排除や格差の問題が出てくる。地域社会をどう構築するかという問題とも切り離すことができない。そうした徐々に生まれつつある排除や格差の問題と取り組む被災地支援は、すでに圧倒的な差別を受けている知的障害者支援の現場とさまざまな点で異なり、それゆえ重要な知見を与えてくるであろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、第一に、多摩地域での知的障害者支援に関する調査研究を深化させる。参与観察を続ける分には、研究費として使える経費はほとんど発生しないが、できれば東京都内だけでなく、日本全国の知的障害者支援団体で、交流のある団体を訪問し、比較検討の材料としたい。そのための旅費が必要である。 また、理論化が課題である以上、社会学のうちでも、支援論や排除論だけでなく、公平や公正にかかわる議論や、地域論など、より多様な学びが必要となる。そのための書籍購入や、他の専門的な研究者との研究交流のための旅費が必要である。 さらに、被災地支援の現場とのかかわりを継続するためには、旅費が必要である。具体的には宮城県七ヶ浜や岩手県陸前高田市への訪問を考えている。 そして、可能であれば、資料整理に協力いただける方を探し、その協力を得ながら、多摩地域での知的障害者支援の歴史を体系的にまとめる作業を行ないたい。そうした方が確保できるかどうかは課題だが、もし見つかれば、その方への謝金も必要である。
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