2012 Fiscal Year Research-status Report
自己決定にかかわる支援における偶有性とそれを活かす組織についての実証的研究
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23730497
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
三井 さよ 法政大学, 社会学部, 准教授 (00386327)
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Keywords | 知的障害 / 自己決定 / 偶有性 / 支援 |
Research Abstract |
たこの木クラブを中心として、多摩地域で知的障害当事者とともに生きることを模索する団体と、首都圏内で知的障害当事者の自立生活を支援する団体等に、継続して参与観察とインタビュー調査を行なった。 現在明らかになっている知見としては、第一に、多摩地域での「ともに生きる」活動が成立してきた経緯が少しずつ明らかになっていることが挙げられる。多摩ニュータウンの生まれた頃に、各地から移り住んできた団塊の世代の中から、三つの保育園での統合保育の試みと就学運動で結びつき、また生協活動を通してそのつながりが拡大し、自立生活運動との連結から多摩市の外へも広がっていったことが明らかになった。ただし、まだ聴き取り調査に終わっており、当時の資料収集などは十分に行なえていない。 第二に、知的障害当事者とともに生きる、あるいは自立生活を支援するという中で、支援者がなそうとしていることは、社会学の基礎理論と結びつけて論じなくてはならないことが見えてきた。具体的にはN・ルーマンのコミュニケーション論である。ルーマンは知的障害当事者とのかかわりを想定してはいなかったため、その点における修正はいくつか必要だが、少なくとも近代的主体を安易に想定しないという点で、ルーマンの議論は参考になる。現在はこの点に関する論文を執筆中である。 第三に、これらの運動が目指す方向性が、単に「障害」にとどまるものではなく、価値を共有しきれない他者との共生という、より広がりを持つものであることが、明確に見えてきた。たとえば刑務所における刑務官と受刑者のかかわりにも援用可能である。この点についても原稿を準備しているところである。 以上、歴史記述としても、理論的にも、重要な発見が多くみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初から想定していた研究の目的のうち、自己決定の支援における偶有性という課題については、現在理論的に詰めつつある。具体的に取り上げる概念は単独の偶有性ではなく、二重の偶有性とすべきだということなど、考察が進んでいる。 組織という課題については、ひとつには首都圏内の多様な支援団体の工夫ややり方について情報を集めつつある。どこが支援者や当事者にとって肝要な点なのかに留意しつつ、細かいヒヤリングを行なっている。もうひとつには、多摩地域の歴史的背景を追いかけ始めている。どちらも、フォーマルな依頼から始まる調査というより、インフォーマルなインタビューが重要な調査であり、先方との関係づくりから始めなくてはならないが、1年間でかなりの情報収集が可能となっている。 上記の理論的課題と組み合わせながらの調査研究がほぼ予定通り進められていると言っていいだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
現在と同様に、たこの木クラブをはじめとして、各団体や団体をつなぐ会での参与観察を継続する。知的障害当事者への支援については、継続的な参与観察が持つ意義は大きい。継続することによって、当初抱いていた理念的な像が覆される契機に繰り返し遭遇するからである。そうした局面における自分自身の葛藤や、他の支援者のふるまいを見ることは、「現場」で起きる事柄の本質を見る上で重要である。 また、多摩地域での支援者たちの緩やかなネットワークの現状と、それが形成されてきた経緯について、より掘り下げたインタビュー調査を行う。1980年代のキーパーソンとされていながら、現在は高齢者介護などにかかわっているため、まだ話を聴けていない人も複数おり、これらの人たちへのアプローチを試みたい。 最後に、理論的な探究をより進める。高度に抽象的な社会学理論の方が現場の状況を説明する上で有効であることが見えてきたが、それらの学史的背景など、踏まえなくてはならない点は多々あり、この点にも取り組んでいきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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