2011 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ合衆国における多人種コミュニティ論の歴史社会学的構想
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23730503
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
南川 文里 立命館大学, 国際関係学部, 准教授 (60398427)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | エスニシティ / コミュニティ / 人種 / 多文化主義 / アメリカ合衆国 / 日系アメリカ人 / アフリカ系アメリカ人 / 歴史社会学 |
Research Abstract |
科研費研究助成1年目の平成23年度は、主に理論的な枠組の研究および実証研究のための資料収集を中心に行った。まず、理論的枠組としては、アメリカ合衆国におけるコミュニティ論・人種関係論・多文化主義論を検証し、多人種コミュニティを「アメリカ型多文化主義」の萌芽としてとらえる仮説的枠組をたてた。また、アメリカにおけるエスニシティ論および多文化主義をめぐる議論を整理し、エスニシティや人種を「社会編成(social formation)」としてとらえる枠組を提示し、多人種コミュニティ論の基礎的な視点を確立し、24年度に発表する。また、事例研究については、日系人側の資料を分析・活用し、「日系アメリカ人」というアイデンティティのあり方が、どのような1960年代の公民権運動期以降のエスニシティをめぐる言説に対応する形で登場した歴史的経緯について概説し、単著論文として日本語および英語で発表した(「世代の言葉でエスニシティを語る:日本人移民はいかに『日系アメリカ人』になったのか」等)。また、アメリカ日系人における「コミュニティ」意識の起源を戦前期にさかのぼり、排日運動期における独自のコミュニティの生成過程を考察、英語で発表した(UCLA国際ワークショップ報告)。以上の事例研究を通して、日系人側の独自のコミュニティ意識のあり方を明らかにした。さらに、黒人側の収集資料について整理・分析を進めており、日系人と黒人の人種関係に着目した論文発表の準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に沿って、本研究では、第二次世界大戦後のロサンゼルスにおける多人種コミュニティの形成と発展を考察するための理論枠組を構築するとともに、実証分析のための資料収集を行った。理論枠組については、「アメリカ型多文化主義」の萌芽としてコミュニティを位置づけるという枠組を提示することで、従来の想定よりも、より長期的・多角的な視点からの考察が可能になった。資料分析としては、アメリカの図書館・文書館等で主に1940年代から60年代にかけての黒人コミュニティ側の資料を収集したほか、従来から所蔵していた同時代の日系人側の資料を交えて、資料の整理および分析を進めている。その成果は、24年度以降に学会報告・論文等のかたちで発表する予定である。また、それに加えて、アメリカの研究者を交えて、戦前期の日系移民コミュニティの歴史的形成過程について報告・意見交換を行う機会や、強制収容期における日系人の「コミュニティ」概念のあり方についても考察する機会を得た。その結果、本研究を、より長期的な歴史的変化のなかで把握することが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
計画どおり、今後は、ロサンゼルスにおける多人種コミュニティの形成と発展をテーマにした具体的実証研究に従事し、その成果を順次、口頭発表および論文という形式で発表していく。本研究では、前年度の理論研究の結果、多人種コミュニティを、草の根レベルでの「アメリカ型多文化主義」の原型としてとらえるという着想を得た。その結果、多人種コミュニティ論は、事例レベルの都市社会学的分析と理論レベルの政治社会学的分析の接点と位置づけ、新しい多文化主義の実証研究のための出発点とする方向性で、実証分析を進めていきたい。そのため、具体的には以下の手順に沿って分析を進める。まず、戦後ロサンゼルスで日系人と黒人が相互にどのようなイメージを描いていたのかを検証する。次に、政策レベルで人種関係がどのように扱われていたかを考察し、ローカルな多文化主義的政策の展開を探る。最後に、そのような政策を、実際に二つの人種エスニック集団がどのように受け止め、具体的にどのように相互の関係を築いたのかを考察する。以上の分析過程を経て、多人種コミュニティに見られる「アメリカ型多文化主義」の原型的特徴を明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度の研究費の使用計画としては、当初の計画どおり、前年度の資料調査で十分に収集しきれなかった、公民権運動時代の日系人および黒人側資料、および自治体レベルでの政策文書を中心に、アメリカ合衆国カリフォルニア州で資料収集を行う。そのほか、国内での学会参加や研究者との情報交換のため、国内旅費を使用する。また、収集資料分析を効率的に行うために、前年度に続いてアルバイトを雇用し、資料の電子化とデータベース作成を行う。
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