2012 Fiscal Year Research-status Report
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23730505
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
丸山 里美 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (20584098)
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Keywords | 貧困 / ジェンダー |
Research Abstract |
本研究の目的は、第一に、東京にある貧困者の支援団体、NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の2004年度から現在までの相談記録を分析し、「新しい貧困」の特徴を把握することである。第二の目的は、貧困が形成されるメカニズムについて、ジェンダーに留意した把握を行うことである。第三の目的は、以上の実態把握にもとづいて、貧困の削減に寄与する政策について検討することである。 平成24年度は「もやい」の相談記録のうち、当初から入力目標としていた2004年~2011年度までの約2300件のデータ入力、およびクリーニングを完了した。 そのデータの一部を集計し、昨年度に引き続いて、「もやい」の事業報告書に分析結果の報告を行った。これらの相談記録の半数以上が、野宿者やネットカフェ難民など、居住地をベースにした従来の調査の対象にならない不安定居住貧困層からのものであり、またこの類のデータには珍しく女性からの相談も1割あり、男性と女性とで異なる貧困の諸相や、最近になって深化してきた「新しい貧困」の特質をとらえる、重要な知見が得られている。 その他、平成24年度の研究成果としては、杉本貴代栄編『フェミニズムと社会福祉政策』(ミネルヴァ書房)に、女性のホームレスが生み出される構造的背景について概説した「ホームレスと女性の貧困」という章を寄稿したほか、女性ホームレスの概要や生活の様子、関連する福祉制度などをまとめた単著『女性ホームレスとして生きる――貧困と排除の社会学』(世界思想社)を出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は「もやい」の相談記録のうち、残っていた500件分のデータ入力とデータのクリーニングを行い、2004年~2011年度まで約2300件のデータ入力をすべて完了した。 最新のデータとしては、2012年度のものもあるが、すでに量的分析に十分なデータ量が入力されていること、利用者の質そのものはここ数年あまり変化がないこと、分析のためにはいったんデータ入力を区切る必要があることから、2011年度分までで入力は完了とすることとした。 その後、個人情報を含むデータの扱い方について、「もやい」と協議のうえ、データを扱うメンバーについては「もやい」側と契約を行った。また次年度の報告書作成に向けて、報告書案を定め、執筆メンバーを集め、定期的に研究会を持っているところである。 昨年度に入力済みだったデータ約1800件分については、それをまとめて中間報告行っており、そこからは若年層と高齢層の貧困の特質の違い、および男性と女性の貧困の特質の違いをはじめ、有用な知見が得られている。 以上のことから、次年度の最終年度に向けて、本研究は当初の計画にしたがっておおむね順調に進展していると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、「もやい」の相談記録のうち、2004年~2011年度分の約2300件のデータの分析を行い、報告書を作成する。 この7年間の間にリーマンショックにともなう世界的不況と、若年層の非正規雇用の拡大をおもな原因とする従来のにない形の貧困が深化したため、7年分のデータの経年変化を分析することで、現代的な「新しい貧困」の諸相を理解できるのではないかと期待される。 今年度は、「もやい」で貧困者の相談にあたっているスタッフ・データ入力者・研究者の三者で、データの分析・報告書を作成するための研究会を定期的に持ち、年度末には、「もやい」の7年間の相談活動の記録であると同時に、「新しい貧困」の特質を明らかにするような報告書を作成する。また、最近の貧困政策の動きをフォローしながら、必要な政策提言についても、議論を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
データ入力を、当初の計画では2013年度分まで約3000件行うことにしていたが、すでに分析に十分な量のデータが入力されていること、2011年~2013年度分もデータの内容には大きな変化がないこと、分析作業に時間をとりたいことから、2011年度分まででデータ入力を打ち切ることにした。それにより、データの入力の人件費にあてる予定の研究費に未使用額が生じた。 今年度は分析・報告書作成に注力する。その会議のための交通費に40万円、データ処理の人件費に30万円、報告書印刷費に30万円、関連書籍の関連書籍や諸経費として約10万円分、合計約110万円分の研究費を使用する。
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