2011 Fiscal Year Research-status Report
ローカル・マーケットの日独比較に基づく現代日本の森林荒廃問題の経済社会学的研究
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23730508
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Research Institution | Momoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
大倉 季久 桃山学院大学, 社会学部, 講師 (90554147)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ローカル・マーケット / 森林荒廃 / 木材市場 / 経済社会学 / 埋め込み / 日独比較研究 |
Research Abstract |
本研究の目的は、経済社会学の視点を手がかりとしながら、林業経営、森林管理の日独比較を通して、現代日本における森林荒廃のメカニズム、そして持続可能な森林管理にむけた条件を探ることにある。今年度の研究は新たな政策展開のもとで木材業界全体の再編が進む中での日本の森林管理のあり方の変容を聞き取り調査によって明らかにするとともに、ドイツ林業に関する基礎的な調査・分析を通して森林管理の現状と展開方向を探ることに重点が置かれている。図書資料の収集と分析によるドイツ林業、ドイツの木材市場に関する基礎資料のとりまとめと、兵庫県をはじめとする日本の林業地の成り立ちを明らかにする作業が中心になったが、ドイツについては、バーデン=ヴュルテンベルク州を中心とする林業地域の調査対象地域としての特性を探りつつ、木材取引の長期性、複数性に焦点を当て、その成り立ちと背景を探ることを始めた。近年、木材のグローバルな流通がますます拡大し、木材市場の成り立ちが大きく変化しつつある中、林業経営、そして森林管理のあり方は大きく変容しつつある。しかし日独を比較した場合、その変化に対する対応は大きく異なっていることがうかがわれ、そのことが両国の森林の状況を左右しているように思われた。すなわち、ドイツにおいては自然条件や所有規模に応じた市場の分化が進み、それに対応する多様な団体・グループが出現していく中で持続的な森林管理が模索されている。この点を考えると、日本の場合、市場の統合、あるいは集権的管理をさらに推し進める点が際立つ。とりわけ近年の新生産システム、そして森林・林業再生プランといった木材の生産・加工を規定する新たな政策は、こうした市場統合の推進力となっている。持続可能な森林管理というとき、このような対応の違いが生まれてくる背景やそうした対応が森林管理に与える影響について、日独各地での取り組みをもとに調査研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
木材市場の分化、あるいは統合が進行し、その中で森林管理が新たな対応を迫られていること、そしてそれは、個々の生産者の対応だけでなく、グループ・団体の形成や、新たな業界形成をともないながら進んでいることが明らかになっている。その中から浮かび上がってきたのは、こうした木材市場の分化・統合のプロセスと木材政策や森林政策の近年の動向、および歴史的な展開過程とのかかわり、およびその中での林業経営の位置づけ、さらに木材の生産・加工・流通にかかわるこれまでになかった新たなグループの形成、業界の成立を支え方向づけるメカニズムの解明、そしてそのような観点から現代の森林管理において持続性の達成条件を探りあてることである。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き森林荒廃問題と森林管理の持続可能性をめぐる日独比較研究を進めるにあたって、ドイツ調査では、木材市場の絶えざる分化(人を結びつけ・切り離すメカニズム)を支え方向づける要因の解明を中心に研究の進展を図る。とりわけ、歴史を振り返ったとき、多くのドイツ林業を担う組織が、それぞれの地域社会のネットワークを基礎にして組織されたボランタリーなアソシエーション、例えばVerein(結社)、あるいはEingetragener Verein(登録組合、社団法人)として存続してきたという事実を手がかりとして、近年の木材市場の動向を把握するとともに、今後の森林管理のあり方を展望したい。 一方で国内調査は、近年の森林政策が木材業界、そして市場にどのように影響を与えているのかを、兵庫県や大分県、徳島県などの林業経営の取り組みに対する聞き取り調査、および資料の収集・分析をもとにして明らかにしていく。また、日本社会学会大会をはじめとする学会報告の機会を通して、研究の成果を随時報告するとともに、議論の焦点を明確にしていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今回申請している研究経費のなかで、もっとも多くの部分を占めている旅費、交通費について、国外旅費として、ドイツ林業(バーデン=ヴュルテンベルク州、「黒い森」近郊にて実施)に関する調査は、1回当たり、15日間(計2回)を計画している。国内林業の調査については、兵庫県における林業関係者に対する調査は、おおむね日帰りでの調査を計画しており、徳島を中心とする四国地方での林業関係者に対する調査では、研究期間全体で、計7日間程度調査を予定し、費用を割り当てる予定である。その他、国内林業における先進事例として大分県の取り組みに対する調査と、学会出張の際に支出する予定である。 その他の必要経費については、特に調査の事前、あるいは事後において購入が必要となる資料についてと、研究結果の公表に際して必要となる印刷の費用を算出している。また、研究成果の公表については、報告書というかたちで作成し、可能な限り広い範囲に配布したいと考え、費用を算出している。
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