2011 Fiscal Year Research-status Report
農地再生事業による社会的包摂の試み―大阪近郊棚田地域におけるアクションリサーチ―
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23730519
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
綱島 洋之 神戸大学, 学内共同利用施設等, 研究機関研究員 (10571185)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 貧困・社会的排除・差別 / 雇用創出 / 就労支援 / 農業労働 / 地域開発 |
Research Abstract |
2011年7月より,大阪府柏原市の耕作放棄地にて,農地再生事業を開始した。大阪市内の野宿者数名に日当を支払い,就労困難を抱える若者向けの就労支援を行う事業体の利用者などを受け入れ,2011年度は延べ200人以上が作業に参加した。その結果,約30aが農地として利用できるようになり,野菜や穀物の栽培を開始することができた。これにより,本研究を実行するための現場が完成した。また,大阪府や柏原市などの行政機関や教育機関,地域住民との連携関係が構築された。 本研究期間内の目標は,参加者や潜在的参加希望者,一般市民などのニーズを明らかにし,それらのニーズのマッチングが可能であるか否かを実際に検討することである。2011年度は,研究代表者と地権者や参加者のインフォーマルな対話の中から,さまざまなニーズを引き出すことができた。とりわけ重要な発見は,発達障害を抱える若者たちが安心して就労訓練を積むことができるという意義である。農作業体験を通して,働くことの自信を回復したり,得意あるいは苦手な動作を発見することにより,就職のためにどのような訓練が必要であるかを見出したりすることができた。また,就職した後に余暇を楽しむ場所として利用する者も現れた。農業労働の今日的な意義が明らかになりつつある。一方,日雇い建設労働から引退した高齢野宿者は,高齢者特別就労事業に次ぐ収入源として位置付けており,雇用創出というニーズも依然として重要である。地域住民や若者とともに創造的に働くことができることが本事業の特色である。 本研究の特色であるボトムアップ型アクションリサーチという方法論が真価を発揮している。また,当初の想定を超えて,本事業には就職困難を抱える者のためのエンパワメントという位置づけが可能であることに鑑みれば,社会福祉学のみならず,教育学と農学諸分野が連携する機会を提供することができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2011年度計画のうち,(1)「過去の失敗事例の掘り起し」として,過去に農村に野宿者を研修生として受け入れる試みの失敗例から教訓を得ること,(2)事業経費の確保,(3)参加者に対する面接調査と参加者によるブレインストーミング,の3点が未完了である。 (1)については,2011年度には成功事例も報告されており,得るべき教訓の内容が当初想定していたものほど単純ではないこと,また,本事業の趣旨が当初の想定から変化しつつあり,野宿者以外の就職困難者の比重が大きくなりつつあることのふたつの理由から,計画を立て直す必要が生じている。しかし,2011年度は勤務先である学生ボランティア支援室が多忙を極め,予定通りのエフォートを確保できなかったため,計画を立て直すには至らなかった。 (2)については,予算の規模や助成金の申請先の関係上,一部は2012年5月より実施される。 (3)については,2012年5月より実施する予定であるが,【研究実績の概要】で述べたとおり,研究代表者と参加者のインフォーマルな対話の中で多くの情報が得られていることから,実質的には進みつつある。 以上のとおり,計画に比べて多少の遅れがあるが,2012年度前半に容易に挽回できる程度のものである。
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Strategy for Future Research Activity |
(A) 参加者に対する面接調査と参加者によるブレインストーミング(【現在までの達成度】の(3)に対応)により,本事業の今後の方向性を策定する。2012年度内に2回行う。(B) 何らかの形で参加を希望していながらも参加を躊躇している人がいれば,その理由について半構造的面接調査を行い,本事業に対する潜在的ニーズを明らかにする。そのニーズを(A)の2回目のブレインストーミングに反映させる。(C) (B)の際に,本事業を遂行する上で最も重要な課題を探し出し,解決策のヒントを得るために,同様の課題に直面している,あるいは同様の課題を解決した現場を訪問あるいは交流する機会を持つ(【現在までの達成度】の(1)の計画の立て直しに対応)。(D) 年度末に,参加者や地権者,行政担当者を集めて,本事業を総括するためのグループインタビューや半構造的面接調査を行う。(E) (C)および(D)の結果をまとめて,どのようなニーズが存在し,どのようなニーズマッチが実現したのか,それぞれのニーズマッチを実現するためには,どのような生態・社会資源を利用できるか,農学および開発・社会学的観点から検討する。また教育学との連携も視野に入れる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に研究費が繰り越された理由は以下のふたつである。(a)震災復興財源のために予算が3割カットされる可能性があるため慎重な予算執行を求めるという通知が届き,その通知に従った状態のまま年度末を迎えたため。(b)2011年度計画の一部が未完了であるため。 (a)については,2012年度に「物品費」「人件費・謝金」「その他」の繰り越し分を使用する。(b)については,上記「今後の研究の推進方策」の(A)および(C)で述べたとおり使用する。
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