2011 Fiscal Year Research-status Report
公正な社会政策の実現に向けた総合的研究:「互酬性」の観点から
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23730524
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Research Institution | Saitama Prefectural University |
Principal Investigator |
平野 寛弥 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 助教 (20438112)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 互酬性 / 社会政策 / 福祉国家 |
Research Abstract |
今年度は互酬性論の先行研究のレヴューを精力的に行うとともに,分析モデルを構築することを目的として研究作業を行った. まず互酬性論のレビューであるが,社会政策における互酬性論という本研究のテーマを鑑み,レヴューの対象を社会政策や社会福祉学,社会学の議論に絞り,とりわけTitmuss(1970),White(2003), Fitzpatrick(2003)の三点の先行研究について詳細に検討を行った.なお検討にあたっては,Goodin(2002)を参考に,互酬性における相互義務の条件性,義務の履行時機,互酬性の範囲という三つの分析視角からなる分析モデルを構築し,これを用いてそれぞれの先行研究で展開されていた互酬性論の違いを互酬性の「構造」に着目して分析・考察した. ここでの検討結果については,2011年6月の福祉社会学会大会、および8月の福祉社会学会研究会にて報告を行い,さらにそこでの質疑応答・議論の結果を踏まえて,単著論文(タイトル:「社会政策における互酬性の批判的検討:新たな社会構想としての「多様な互酬性」の可能性」)として日本社会学会の学会誌『社会学評論』へ投稿を行った.なお本稿は,査読を経て2012年12月に刊行予定の『社会学評論』に掲載が決定している. また,以上の作業と並行して,2011年9月にイギリスに出張し,この分野で先駆的な研究を行っている研究者へのヒアリングを実施した.具体的には,イギリスの社会政策学者であるTony Fitzpatrick(ノッティンガム大学),Stuart White(オックスフォード大学),Hartley Dean(ロンドン大学政治経済学院)を訪問し,互酬性研究の現状や現実政治の動向(現在の保守党政権の下で展開されている"Big Society"の進展状況や思想的起源)について意見交換を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の目的であった互酬性論に関する先行研究のレビューと分析モデルの構築,およびこれと並行した海外の研究者へのヒアリングはいずれも予定通り行うことができた. また,先行研究のレビューをもとに,福祉国家体制成立以降の社会政策における互酬性論の変遷を構築した分析モデルを用いて分析・考察し,2度にわたる研究報告のほか,単著論文としての学会誌への投稿も行い,査読を経てすでに学会誌への掲載が認められている.以上を鑑みると,年度当初の計画時点で予想していた以上に研究を進展させることができたといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は当初の研究計画に従い,今年度の研究作業にて構築されたモデルを用いて,互酬的関係の形成・維持要因を経験的に分析する.具体的には「世界価値観調査(World Values Survey)」や「欧州価値観調査(European Values Survey)」,日本の「共生社会に関する基礎調査(内閣府)」やSSJ アーカイブの公開データを利用し,互酬的関係の形成・維持との関連が予想される要因(他者への信頼,不平等度,集団への帰属意識,個人主義的価値観,ケア労働への評価,世代間扶養への支持など)と,支配的な互酬的関係(社会的シティズンシップに見られる権利‐義務関係)の形態の関連について検証し,あわせて国際比較も行う.これに加えて,可能であれば国内外で新たな市民間の協働の在り方を模索しつつ活動を行っているNPOや政党などの団体に直接インタビューを行い,そこで得られたデータをもとに質的な分析も行いたいと考える. これらの作業と並行して,これまでの研究成果を国内外の関連学会にて報告(海外での学会報告はBIEN(ベーシックインカム世界ネットワーク)を予定)するとともに,年度末を目途に学会誌への論文投稿を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は研究作業を当初の計画以上に進展させることに成功したが,他方で申請者の勤務先が次年度から変更するという状況が生じたために,研究費の執行計画の変更を余儀なくされ,次年度への繰越金が発生する事態となった. ついては,次年度に研究開始当初の予定よりも研究費が配分できるようになったことから,それを生かして海外での学会発表と現地調査を実施したいと考えている.具体的にはすでに学会報告のため訪問する予定のあるドイツと,昨年より継続して政策動向をレビューしているイギリスにおいて,新たな協働の在り方を模索しつつ活動を行っているNPOや政党などの団体にインタビューを行う予定である.あわせて統計資料も入手し,それをもとに現地の人々の互酬性に関する意識についての(比較も含め)分析を行うことを予定している.
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