2011 Fiscal Year Research-status Report
高関係流動性社会における独自性追求行動の社会的機能
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23730576
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹村 幸祐 京都大学, 経営学研究科, 助教 (20595805)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 関係流動性 / 独自性 / ユニークネス / 個人主義 / 社会生態学的アプローチ |
Research Abstract |
本研究では、「他者とは異なる」ことを求める独自性追求行動が、周囲の社会環境の特徴によってはむしろ向社会的に機能するとの仮説を提唱する。特に、社会環境の特徴として関係流動性(社会関係の流動性・開放性)に着目し、関係流動性の異なる国間比較ならびに国内地域間比較によって仮説の検証を行う。平成23年度には、関東地方と東北地方で生活する一般成人を対象としたネット調査を実施した。この調査では、音楽に関してマジョリティに属する趣味の持ち主(e.g., ポップミュージックのファン)とマイノリティに属する趣味の持ち主(e.g., ヘビーメタルのファン)に調査参加者を分類した上で、現在の社会関係満足度を関東(相対的に関係流動性の高い地方)と東北(相対的に関係流動性の低い地方)で比較した。調査結果は仮説を支持した。まず、マジョリティ趣味の持ち主の社会関係満足度は関東と東北で差が見られなかった。これに対し、マイノリティ趣味の持ち主(すなわち、独自性の高い個人)の社会関係満足度は地方間で異なり、関東で東北より高く見られた。このことは、同じマイノリティ趣味を持っていても、関係流動性の高い環境と低い環境では社会生活に及ぼす影響が異なることを示している。さらに、マイノリティ趣味の持ち主の社会関係満足度が関東で東北より高いという結果は、「自分の音楽の趣味について他者に話す人々」の間でのみ見られるという干渉効果も確認された。すなわち、たとえマイノリティ趣味を持っていたとしても、それを人に話さず完全に個人的な趣味としてのみ実践している場合には社会関係に影響しないものの、他者に日常的に話す(すなわち、他者から観察可能になる)場合には周囲の環境(関係流動性の高低)の影響を受けることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度には、(1)ネット調査による国内地域間比較、(2)独自性の高い人物に対する選好を調べる行動実験を予定していた。(1)のネット調査は実施できた。しかし、研究代表者の異動などに伴い、(2)の行動実験に関しては実施することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
過去の研究では、独自性欲求が社会関係満足度や人生満足度に及ぼす影響が社会の関係流動性に応じて異なる(関係流動性の高い環境では、独自性欲求を高く持つことが社会関係満足度などによりポジティブな効果をもたらす)ことが確認されていた。平成23年度に実施した研究により、このことが「欲求」のレベルだけでなく、日常的な「行動」としての趣味のレベルでも再現されることが確認された。この知見を土台に、今後の研究をすすめる。第一に、平成23年度の調査をより広範囲で実施する。平成23年度の調査では東北と関東を対象に調査を行い、より関係流動性の高い関東で独自性追求行動がポジティブな効果を持つことが確認された。しかし、この調査の大きな限界の1つに、関東と東北の比較には、関係流動性以外にも共変する変数が存在し、そうした変数の効果が混交している点が挙げられる。そこで、今後はまず、この調査を拡大し、より多くの地域からのデータ収集を行い、マルchる分析などの手法で関係流動性の効果をより直接的に検討する。今後の研究推進においても、可能な限り多くの地域でデータ収集を行い、マルチレベル分析で検討することを基本的方針としたい。従来の比較文化研究では二国間比較(e.g., 日米比較)を主たる手法としてきたが、国と国の間には多様な次元での差異が存在し、二国間を比較しただけでは観察された文化差の原因を特定し切れない。このことは、国間比較だけでなく、国内の地域間比較においても同様で、二国/二地域の比較の大きな限界となっている。これは、マイクロ(心理・行動傾向)とマクロ(文化を含む環境)のダイナミックスについての理論仮説構築を行う上で大きな制約であった。近年、ネット調査の発達により、多くの地域からデータ収集を行うことがかなり容易となった。本研究ではネット調査のこうした特性を活かしたデータ収集を推進していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実は平成23年度の調査は、予定していた予算を使用することなく実施することができた。当初、新たにデータ収集を行ってそのデータを分析することが予定されていたが、その調査目的に合致する変数を含むデータの提供を石黒格氏(日本女子大学)から受けることができた。石黒氏のデータの二次分析を行うことで、経費を掛けることなく、予定していた研究のおおむねを実施することができた。平成24年度には、この二次分析で得られた知見のより厳密な検討ならびにその一般化可能性の検証を行う。まず、関東・東北の2地方だけでなく日本国内のより広い範囲でデータ収集を行い、個人レベルと都道府県レベルを合成したマルチレベル分析を行う。また、平成23年度の調査で検討した「音楽」の趣味だけでなく、より他者の目に触れやすい領域である「ファッション」の趣味についても検討することを予定している。さらに、独自性の高い人物への選好に関しても、ネット調査等を用いて可能な限り多様な社会環境からのデータ収集を行うことを予定している。これにより、二国間比較/二地域間比較では特定し切れない「文化差の原因」にアプローチする。
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Research Products
(3 results)