2011 Fiscal Year Research-status Report
社会的スキルの観点による在日中国人留学生の日本文化適応に関する社会心理学的研究
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23730580
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
毛 新華 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (90506958)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 異文化適応 |
Research Abstract |
近年,日本で勉強する外国人留学生が飛躍的に多くなり,在日留学生の日本文化適応を促す必要性が高まっている。本研究は,先行研究で指摘された在日留学生の適応に最大の課題点としての「対人関係の形成」に注目し,在日留学生,とりわけ中国人留学生の対人関係を円滑に運ぶ「社会的スキル」の研究を取り組もうとしている。 社会的スキルの分類や異文化適応のプロセスに関する先行研究を踏まえ,本研究では,(1)来日期間ごとに,中国人留学生の日本文化適応には,どのような対人的問題を抱えているか,そしてどのような適応プロセスを踏むかについて明らかにする。さらに,(2)期間ごとの問題点に対応し,社会的スキル・トレーニングという方法を講じて,中国人留学生の「対人関係の形成」を向上させることを目的としている。 3年計画の本研究は,当初,平成23年度には,上記の(1)に従い,「中国人留学生の日本社会における『日本人との対人関係の形成』に関する階層ごとの適応上の問題およびプロセスを総合的に明らかにする」と研究計画を立案した。しかし,より先行研究を対象とする文献リサーチを行って,自らのこれまでの研究をまとめ,しっかりとした理論的なベースを構築することが,本研究の推進に大事と考えた。そのため,平成23年度には,まず,(1)書籍の購入および学術論文のレビューを行った。そして,(2)精力的に国内外の学会で発表・聴講を行った。(1)の実行により,異文化適応領域における社会的スキルに関する研究の方法論,とりわけ研究に重要とされる変数やトレーニングの方法など,一層明確になった。(2)の実行により,本研究の推進に役立つ自らのこれまでの研究成果を発表することができ,他の研究者と意見交換し,新たな知見を得ることができた。また,同じ領域の研究者の研究を聴講することにより,自らの研究の新しいヒントを得ることもできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究業績の概要でも記載したように,平成23年度には,当初に立案した「中国人留学生の日本社会における『日本人との対人関係の形成』に関する階層ごとの適応上の問題およびプロセスを総合的に明らかにする」と研究計画をそのまま実行をしなかった。その代わりに,文献レビューと学会発表を精力的に行った。そのため,当初の計画と比べて,「やや遅れている」ということになる。しかし,「やや遅れている」ことは後続年度の計画の妨げになることがなく,むしろ,平成23年度に行った上記の研究活動は平成24年度以降の研究をより確実に実行できる土台になると確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には,(1)中国人留学生の日本社会における「日本人との対人関係の形成」に関する階層ごとの適応上の問題およびプロセスを総合的に明らかにする。(2)中国人留学生の各適応段階において,中国文化と対照的に捉える日本文化における対人関係に必要とする社会的スキルの種類とレベルを確認するために,質問紙調査および実験室実験を行う。 (1)の目的を達成するために,まず,各適応段階(ハネムーン期などの4段階)に位置する留学生を多段階抽出法のサンプリングにより日本語学校や専門学校,そして大学に在籍している中国人留学生を対象とし,自由記述調査を行う。また,中国人留学生と密に関わる日本人を対象に,インタービュー調査を通して留学生の対人関係の困難を調べる。得られた自由記述の回答は適応段階ごとに,テキスト分析ソフトを用いて分析し,中国人留学生の日本文化適応の問題点を社会的スキルとの関連から明らかにする。そして,日本人を対象とする調査で得られた内容データと合わせて,中国人留学生特有の「日本人との対人関係の形成」時の適応に関する問題点を明らかにする。 (2)の目的を達成するために,各適応段階(ハネムーン期などの4段階)に位置する留学生を募り,質問紙調査を行う。質問紙には,中国人大学生社会的スキル尺度を用いて,各適応段階の留学生の中国社会の若年層に通用する社会的スキルのレベルを確かめる。そして,それぞれの留学生を同年代の日本の若者と会話を行わせる。会話後,留学生本人,会話の相手が当該留学生の会話中に実現できたスキルを,上記の(1)で明らかにした留学生の適応上の問題点をもとに作成されたチェックリストに照らし合わせて評価する。また,会話の様子を録画し,録画した映像を留学生のこと知らない日本人の大学生に提示し,第三者としての観察者に同様の評価を求める。これらのことを通して,中国人留学生の日本文化適応のプロセスを解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の(1)と(2)の実行には,データの安定性の視点から,それぞれ中国人留学生200人と80人という相対的に大きいサンプルが必要となる。これらのサンプルを確実に確保するために,申請者がこれまでの研究で依頼したことのある複数の留学生を受け入れる教育機関を活用する。なお,調査・実験における脱退者の発生によるデータ不足の事態を防ぐために,サンプル数は多く確保する予定である。そして,(1)で言及した「留学生と密に関わる日本人」は,申請者のこれまで関わった留学生を世話するボランティア団体から募集する。 上記の調査を実施できるために,調査を受け入れる機関と調整してくれるコーディネーターに謝礼を支払う予定をしている。調査を実行した際,対象者の拘束時間が発生すると考えられるので,拘束時間に対する謝礼を支払う予定をしている。また,得られた中国人留学生の中国語による自由記述の翻訳作業の迅速化をはかるために,翻訳業者に外注する。さらに,自由記述のテキストを分析するために,分析ソフトの購入を予定している。(2)のサクラは申請者の所属学部の文化および社会的スキルを研究テーマとする院生・学部生によって構成され,第三者の評価者は申請者の担当する授業から学生を募集する。会話実験は申請者の所属学部の心理学実験室を用いることにより,実験の精度の向上を期待することができる。(2)の会話実験の協力者・参加者を対象に,謝礼を支払う予定をしている。 上記の(1)と(2)のデータの迅速な分析のために,データ入力や基礎的集計作業を2名の研究補助者に依頼する予定をしている。
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