2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730582
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石井 敬子 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (10344532)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 文化 / 価値 / 文化的産物 / 選好 |
Research Abstract |
文化心理学において、意味体系や信念、価値は、当該の文化におけるさまざまな慣習の実践や文化的産物への接触を通じ、認知、思考、感情、動機づけなどのさまざまな心の性質へと反映されると考えられている。しかしそれらがどのように維持、継承されているのかについての理論的考察は進んでいない。本研究の目的は、この未解明な部分を補うべく、1)文化的な価値観の維持に個人がどのように関わっているか、2)当該の文化的な価値の維持に関連する個人の選好は発達の段階でどう形成されるのか、3)さらにはそのような選好に対する脳内基盤は存在するのかを探索していくことにある。本研究では、文化的産物として塗り絵に注目する。本年度は、日本および北米(アメリカ・カナダ)の大学生および5~6歳の未就学児を対象として塗り絵を収集した。そしてそれらを別の日本・カナダの大学生に呈示してそれらに対する選好を尋ねた。さらに文化的価値に関連した次元(独創性、調和)を用いて、その塗り絵を評定させた。もしもそれぞれの文化で産出された塗り絵にその文化で優勢な価値が内包されているのであれば、北米産の塗り絵は独創的かつ逸脱していると判断されやすく、一方、日本の塗り絵は調和がとれかつ凡庸だと判断されやすいだろう。加えて、カナダ人は北米産の塗り絵を選好しやすいのに対し、日本人は日本産の塗り絵を選好しやすいだろう。本年度行った実験の結果は、その予測に一致するものであった。そして重要なことに、その傾向は未就学児の塗り絵に対しても見られた。これは未就学児による産物にも文化的価値が内包されていることを示唆する。次年度以降の研究では、発達および社会化の段階において文化的価値がどのような影響を及ぼすのかについて詳細に検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の実施計画通りに、日本と北米の大学生および未就学児を対象として文化的産物(塗り絵)を収集し、自文化の価値を内包した文化的産物の産出と選好に関する実験を実施することができた。そして予測と一致した結果が得られた。また今年度は、これに関連する知見を国内・国外の学会で発表した。このことから本研究は概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度収集した文化的産物(塗り絵)をもとにして、計画通りに、当該の文化的な価値の維持に関連する個人の選好は発達や社会化の段階でどう形成されるのか、さらにはそのような選好に対する脳内基盤は存在するのかについて探索していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、発達および社会化の段階において文化的価値がどのような影響を及ぼすのかに焦点を当てた2つの行動実験を日本(神戸大学)およびカナダ(トロント大学)において行う。研究1は未就学児を対象としたもの、研究2は、アジア系カナダ人を対象としたものである。実験にあたっては、被験者謝金(研究1: 100名、1名につき1500円; 研究2: 100名、1名につき1000円、計250千円)と研究補助者謝金(延べ200時間、1時間につき1000円、計200千円)を必要とする。また旅費として、トロント大学との研究打ち合わせ(7日間、250千円)と国内・国外学会での成果発表(国内外それぞれ1回、250千円)を合わせ、計500千円を必要とする。これに加えて、プリンター用紙、トナー等の消耗品用として50千円計上する。
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Research Products
(4 results)