2011 Fiscal Year Research-status Report
量刑判断に影響する心理学的要因に関する研究 ―厳罰化の流れをふまえて―
Project/Area Number |
23730592
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Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
北折 充隆 金城学院大学, 人間科学部, 准教授 (30350961)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 厳罰化 / 裁判 / ゲイン-ロス効果 / 社会規範 / 量刑判断 / 心理 |
Research Abstract |
2003年に政府は「世界一安全な国、日本」の復活を目指し、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を策定した。この中で、凶悪犯罪に関する罰則について法定刑・有期刑の上限が引上げられた。また2009年5月より、市民から無作為に選ばれた裁判員が、裁判官とともに裁判を行う裁判員制度が開始された。これは、市民が持つ日常感覚や常識を裁判に反映するとともに、国民の理解の増進と信頼の向上を図ることが目的とされる。 社会心理学的観点から、近年、裁判員制度に関する研究は徐々に進められてきているが、裁判におけるゲイン・ロス効果の影響はその俎上にすら載せられていない。Aronson & Linderによる、魅力度評定の実験に端を発するこの効果は、ただ褒めるよりも、初めに少し否定的な評価をし、後で好意的な評価をした方が評価が高くなるというものである。この枠組みは、あくまで対人評定に関するものであるが、量刑判断に至るまでの心証に拡大すれば、検察側陳述と弁護側主張の順序が、判決に影響を及ぼす可能性は否定できない。 本プロジェクトは以上をふまえ、量刑判断を下す上で影響する心理的要因を、多面的に明らかにするものであった。 23年度は、24年度以降の具体的な研究実施に向けた基礎研究を行った。まず、Web調査実施前の基礎研究として、これまでの知見をレビューし、Web調査に必要な尺度の収集・作成、および次年度以降の面接調査・模擬裁判ゲームの実施に投入する必要がある因子を決定した。具体的な手順としては、過去の判例や裁判の傍聴記などを収集した。さらに、裁判員裁判の傍聴・アメリカの陪審員制度の視察により、両者の違いを比較・検討した。後半は、Web調査項目の作成、および面接項目を策定し、ゲイン・ロス効果に基づく検察・弁護側の主張の順序、および刑務所の過剰収容に関する問題提示の有無などを決定し、Web調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画として、裁判シナリオの作成を目標としていたが、裁判の傍聴などの起訴活動が十分とは言えない状況であった。その反面、結果を軽く予測する目的のため、作成したシナリオを用いてのWeb調査を実施することができた。 この二つを総合して、多少の遅れ・進み具合の相違はあるものの、おおむね計画通りに進展していると結論できる進捗状況であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に得られた基礎データをもとに、さらに追加でWeb調査を実施する。本プロジェクトは、適切なサンプリングに基づくWeb調査が必要不可欠であり、信頼できる協力者を抱えた調査会社に依頼する。また、調査では明らかにできない細かい感情の変化や、量刑判断に至る思考プロセスを明らかにするため、裁判員を経験した人を対象とした面接を実施する。これにより、どういった要因に着目して量刑判断に至ったのか、社会復帰の遅れや結果として生じる負担の増大といった側面を考慮したか、もしも裁判中に聞かされていたら判断が変わったかなどを確認する。 後期からは、次年度実施の模擬裁判ゲームに関する計画を策定する。ここまで実施してきた検討は、個人の判断に至るまでのプロセスに着目している。しかし、裁判員裁判は合議で有罪・量刑の決定をするため、集団での話し合いのプロセスの検討が極めて重要となるため、次年度に向けた実施計画を策定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
Web調査、および裁判所の傍聴などが研究費用となる。またこれと平行して、学会発表などの成果報告にも、研究費を投入する予定である。
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