2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730597
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
真島 理恵 熊本学園大学, 商学部, 講師 (30509162)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 社会的ジレンマ / サンクション / 罰 / 報酬 / 協力行動 / 社会心理学 |
Research Abstract |
平成23年度は、サンクションタイプの分類、及び適応的と目されるサンクションタイプの特定を行うことを目的とした質問紙調査を実施した。サンクションにより解決が図られる社会的状況の多くは社会的ジレンマ(Social Dilemma: 以下SD)の特徴を備えているため、SDにおける行動をサンクションの対象として設定した。SDでの協力者・非協力者に対するサンクションに従事する者・従事しない者が登場するシナリオを用いた、場面想定法の質問紙実験を実施した。サンクション行使者と非行使者が登場する架空のSD状況のシナリオを提示し、両者に対する印象を評定させた。シナリオでは、サンクションの「内容」と「実行主体」を操作した。具体的には、内容条件として「罰」「報酬」「排除」の3条件を、実行主体条件として、メンバーが個人的にサンクションを行う「個人」、メンバーが公的ルールに従ってサンクションを行う「システム(ルール)」、お金を払って外部にサンクションを委託する「システム(委託)」の3条件を設定し、各タイプのサンクションにおけるサンクション行使者・非行使者の印象を測定した。その結果、1) 罰行使者と報酬行使者は非行使者に比べポジティブな評価を受ける一方で、排除サンクション行使者はネガティブな印象をもたれることが明らかとなった。また同じサンクション行使者でも、 2) 報酬行使者は「つきあいやすい人」と評価される一方、罰行使者は「怒りっぽいがフェアな人」という質的に異なる評価を得ること、ただし 3) システム(委託)条件では、そのようなサンクション内容による印象の差異が見られないこと、が明らかとなった。これらの結果から、サンクション行動の適応的基盤が、サンクションのタイプにより異なる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、大規模な社会における相互協力を支えるサンクションの成立基盤を理論的・実証的に解明する事にある。平成23年度は、本研究の目標の一つである、サンクション従事者に対する心理反応の解明という新たな視点からこれまで一括りに扱われてきたサンクションの構造を分類する基本軸を作成することを焦点とした、質問紙調査を実施した。具体的には、サンクションを分類する枠組みの候補として「個人」「システム(ルール:個人がシステムのルールに従ってサンクションを実行する)」「システム(委託:個人がシステムにお金を支払い、システムがメンバー以外にサンクション実行を委託する)」というサンクション実行主体と「罰」「報酬」「排除」というサンクション内容を想定し、これらの組み合わせに対応した各サンクション従事者が獲得する評判内容を明らかにする、場面想定法のシナリオを用いた印象評定測定質問紙を行った。その結果、サンクションのタイプによりサンクション従事者が獲得する評判内容がシステマティックに異なる事が明らかとなり、サンクション行動の適応的基盤を検討するにあたっての想定するべき有効な分類軸が示された。中でも特筆すべき点として、調査の結果明らかとなった、2種類のサンクショニングシステム(「ルール」タイプのシステムサンクションと「委託」タイプのシステムサンクション)においてサンクション従事者がそれぞれ質的に異なる内容の評判を獲得するという知見は、その重要性にも関わらずこれまで気づかれてこず、サンクションのタイプをシステマティックに操作した探索的分析によってはじめて明らかとなった重要な知見である。このように平成23年度は、探索的調査の結果からサンクションの分類軸の特定という目的を進展させることに成功しており、計画は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究から示されたサンクションの分類軸に基づき、適応的なサンクションのタイプと、各タイプのサンクション行動が適応的となる社会的ドメインを特定する。23年度の調査の結果は、他者からの評判獲得を通じた適応的基盤を備える可能性の高いサンクション内容として「罰」「報酬」を示すとともに、「個人」「システム(ルール)」「システム(委託)」というサンクション実行主体の違いがサンクション従事者の評判内容(≒適応価)に違いを生むこと、またサンクションの機能(e.g., サンクションに対するネガティブなイメージを低減することで集団成員のサンクション従事への心理的負荷を小さくし、サンクション従事行動を促進する)にも質的な差異が存在することを示唆するものであった。そこでまず、罰・報酬というサンクション内容と個人・システム(ルール)・システム(委託)というサンクション実行主体を組み合わせた各タイプのサンクション行動が、具体的にどのような社会的ドメイン(e.g., リーダーとしての社会的地位獲得場面, 二者間の社会的交換場面、新規に関係を形成する場面)における適応価を高め、またいかなる機能の特徴を備えるのかを特定する追加調査を実施し、各タイプのサンクション行動が適応的になる仕組みを理論的に導出するにあたって想定すべきゲーム状況とパラメータの種類を明らかにする。そしてそれらの設定を用いたシミュレーションと数理解析を行い、サンクション行動がいかなる仕組みにより適応的となり得るかを明らかにする理論モデルを作成する。その後、平成25年度には理論モデルの妥当性を集団実験により実証的に検討するとともに、サンクション行動と個人のパーソナリティ特性や認知バイアス傾向などの心理特性との関連を調べ、サンクションの成立を支える至近的な心理基盤を解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
サンクションに関する先行研究知見及び事例を収集するための書籍(特に2種類のシステムサンクションに該当する事例に関する書籍)を購入する。またコンピュータ・シミュレーション及び数理解析の準備としてプログラム開発を行うための開発用PC1台と、複数のタイプのサンクションを対象とした網羅的なシミュレーションと数理解析を行うための高性能ワークステーションやデータ保存用の大容量ハードディスクや記録メディア等を購入する。(プログラム開発・分析用ソフトウェアやマニュアル等も購入する。)また、本研究の成果を、また本研究の成果を、実験研究の専門家が多数出席する国内学会(社会心理学会、日本人間行動進化学会)、及び国際学会(人間行動社会進化学会、平成24年度はアメリカ合衆国にて開催)で発表するための旅費を支出する。
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Research Products
(5 results)