2011 Fiscal Year Research-status Report
高齢者の知的活動と認知機能の低下防止との関連に関する老年神経心理学的研究
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23730620
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
岩原 昭彦 和歌山県立医科大学, 保健看護学部, 准教授 (30353014)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 老年期の認知機能 / ライフスタイル / 認知の予備力 / 疫学的神経心理学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、中高年者の知的活動の状況と認知機能との関連性を検討することであった。知的活動と認知活動との関連性を検討するためには、知的活動を数量化することおよび認知機能に影響を与えると考えられている職業歴等を統制する必要がある。そこでまず初めに、ライフスタイル活動を測定するための尺度を開発した。知的活動が、認知活動、情報通信機器の使用、対人交流という3つの因子から構成されていることが明らかとなった。また、職業活動においてどの程度知的な能力を使用している(いた)のかを測定するための尺度を開発した。10項目の1因子から構成される尺度を用いて職業上の知的活動状況を数量化できるようにした。両尺度の信頼性および妥当性に検証は今後必要となるが、両尺度が開発されたことにより、知的活動と認知機能との関連を厳密に検討するための前提は本邦では初めて整ったことになる。知的活動の状況が認知機能に及ぼす影響の検討を住民健診の参加者1082名(男652名、女:430名 平均年齢:65.8歳、年齢範囲:40~86歳)を対象として行った。認知機機能の測定は名古屋大学式認知機能検査(NU-CAB)を使用した。NU-CABは、MMSE、D-CAT(注意機能)、論理的記憶検査、言語流暢性検査、Stroop検査、Money Road Test(空間処理機能)から構成されていた。各種認知機能検査の結果を目的変数、認知的活動、対人交流を説明変数とした重回帰分析を性、年齢、教育歴、職業上の知的活動で調整したうえで実施した。認知的活動が高まると認知機能の成績が高くなることが先行研究と同様に明らかになった。しかし、情報通信機器の使用を説明変数に追加すると情報通信機器の使用のみが認知機能に影響を与える結果となった。情報通信機器の使用という変数の意味について詳細に検討する必要があろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目的は、(1)知的活動の状況が認知機能に及ぼす影響の検討および(2)尺度構成のための予備調査であった。研究実績の概要でも示したとおり、知的活動と認知機能の関連性はコホート研究のデータを利用し厳密に検討した。そこでは新たな知見を見出しており今後の研究の必要性を示すことができた。また、ライフスタイル活動および職業上における知的活動を数量化するための尺度を開発したことで、当該年度の2番目の目的は達成されたと考えられる。次年度以降は、その信頼性と妥当性の検証を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
コホート研究において知的活動と認知機能のとの関連性を検討することの重要な意義としては縦断的な解析が行えることである。本年度は縦断的データを解析するための準備が不十分であったため、縦断的解析を実施するためのデータベース作りが今後の研究を推進するうえで最も重要な課題である。過去の特定健診等のデータを現在所有しているデータベースに連結するための作業(新たな倫理申請とデータベース構築)を早急に行う予定である。データベースの構築が完了すれば、新たな解析や次年度の研究目的である心理実験が実施可能になると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究計画は、大きく(1)縦断的データの蓄積を目的としたコホート研究と(2)認知の予備力仮説の実験的検証とに分けられる。(1)については、前年度に引き続きデータを蓄積することで、知的活動の状況が認知機能に及ぼす影響を再度検証する。前年度に検証したモデルの再現性を確かめるとともに、モデルの頑健性を高める。(2)については、コホート研究のデータから、2(過去の知的活動;有/無)×2(現在の知的活動;有/無)の4つのタイプに該当する対象者を統制すべき変数をマッチングしたうえで抽出し、ラテラリティ実験を行う。また、詳細な知的活動の状況を質問紙法および調査的面接法によって実施するとともに、神経心理学的検査を実施することで、多角的な視点から知的活動の状況と認知機能との関連性を検証する。
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