2011 Fiscal Year Research-status Report
大学生の「分かったつもり」を解消する支援:学校インターンシップを中心に
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23730621
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Research Institution | Kochi University of Technology |
Principal Investigator |
田島 充士 高知工科大学, 工学部, 講師 (30515630)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 学校インターンシップ / 分かったつもり / 教員養成 / 大学教育 |
Research Abstract |
本研究は学校インターンシップに学生が参加することによる、彼らの言語認識の成長可能性を明らかにすることを目的としている。本年度は、学校インターンシップの現状を知るためのフィールドワーク調査および今後の研究を進める上で必要となる分析概念を構成するための理論研究を行った。 フィールドワーク調査としては、学校インターンシップ実践の現状を明らかにすることを目的として、中学校に派遣された二名の学生を対象としたフィールドワークデータの分析および関係者へのインタビュー調査の実施・分析を行った。その結果、研修当初の学生らの知識には、大学文脈では適用できる内容であっても、学校文脈に住む生徒らに説明することができない「分かったつもり」であるものが多いという実態が明らかになった。一方、研修を通じ学生らは、生徒らの反応に対話的に応じることができるようになったこともわかった。本調査の知見は、実証的検証が十分ではない、実践に参加する中での学生らの言語認識の変化を明らかにした点で意義あるものといえる。 理論研究としては、学校インターンシップ研究に関連する主要文献にあたった。また学会発表・招待講演の開催等を通じ、先端的に実践研究を行う心理学・教育学の研究者・学校関係者との研究交流も行った。これらの分析の結果、大学と教育実践現場を往還する研修参加者の経験は、彼らの言語認識に肯定的な変化を与えるものとして評価できるものの、この彼らの成長を組織的に評価・育成する、大学側のフォローアップ教育については不十分という現状も明らかになった。本研究の知見は、学生の大学における学びを、教育実践現場において役立つ知恵としていくという、大学における教員養成教育に課せられた重要な使命を果たすための方向性を明確化できた点で重要な成果といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、学校インターンシップに関する文献を中心とした理論研究、および教育実践のフィールドワーク調査の実施・分析については、おおむね順調に達成している。 特に理論研究では、申請者が専門とするヴィゴツキー・バフチン理論を中心として、学校インターンシップに関わる言語認識の問題をテーマとした検証を行った。その結果として、教員に必要な言語認識を、子どもたちが住む世界とは異なる世界の知識について、生徒達にも理解できるようなことばによって知識を意味づけ、さらに疑問に応じることができるものと定義づけ、これを「越境の知」と名づけた。 また学校インターンシップ参加学生の言語認識の成長過程を検証したフィールドワーク調査を通し、この「越境の知」の具体的な姿を明らかにすることを目指した。本調査は少人数の調査協力者を対象に実施したものであるため、その結果の客観性については課題が残るものの、今後、研究を進める上での基礎理論となる知見を得られたと考えている。 これらの成果の一部はすでに2回の学会発表・2回の招待講演でも発表した。また平成24年3月には所属校において、シンポジウム「学校インターンシップの未来を問う~理論知と実践知を結ぶ~」にも中心的な企画者として運営に携わり、先端的な研究・教育実践を行う研究者・学校教員を講演者として招き、さらに申請者自身の研究成果も交えて議論を行った。この他にも、心理学・教育学の研究者・学校関係者との研究交流を積極的に行い、「越境の知」を学校インターンシップの成果研究を行うための高度な分析ツールとなる概念とすべく、検証を深めることができた。 以上のことから、おおむね研究は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2011年度の研究成果をもとに、当初の研究計画通り、学校インターンシップの参加経験が、参加学生の言語認識にもたらす効果をより客観的なデータ分析に基づき検証することを目指す。 具体的には、10~20名程度を対象とした面接調査を行う。本調査では、インターンシップ経験の有無により調査対象者を分け、学校で生徒を教える場面を想定した課題を設定する。本調査では面接において示された、インターンシップ経験の有無による調査対象者の教授能力の違いを測定・比較することを通し、フィールドワーク調査によって得られるインターンシップ経験の効果について、より客観的な知見を得ることを目的とする。またこの検証を通し、申請者が「越境の知」と呼ぶ、教員養成教育が目指すべき言語認識の姿について、より具体的にモデル化することを目指す。 さらに「越境の知」の育成を目指し、研修参加者の成果を適性に評価・支援できる、大学の組織的なフォローアップ教育のあり方を検証することも目指す。昨年度に行った研究では、インターンシップ参加学生の成長を促進するための大学側の組織的な働きかけが、現行の学校インターンシップ実践には不十分であるという課題が明らかになっている。しかし学校インターンシップ専任の教員を設置できる大学も多くはないため、効果的かつ効率的なフォローアップ教育システムの開発が必要であると考えられる。そこで本年度は、学校インターンシップ参加学生に対し、「越境の知」を養成することを目指した大学教員による、web掲示板等を活用した学生評価・支援システムの制度研究を行う。この中で、適切な評価システム・ルール・指導のあり方について検討し、それぞれのテーマについてモデルを提案することを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は、今後の発展的な研究を行うための基盤的な知見をまとめ、また調査システムを構築するため、書籍・調査器具などの物品費の支出割合が高かった。 今年度はこれに加え、映像データおよび音声データの分析を行うため、これらのデータを文章化するプロトコル化作業を依頼する必要があり、それに対する謝金の支出が必要となると考えている。 さらに学校インターンシップ経験者の学習成果を評価・支援する教育システムの構築にまで研究を進めることができた場合、そのシステムを効率的に運用するためのシステムの開発・導入費用も必要になると考えている。 一方、昨年度までは申請者自身が学校インターンシップの制度設計・運営・指導を行ってきた高知工科大学の少人数の学生のみを対象に研究を行ってきたため、そこから引き出された知見の客観性には限界があることが、研究課題として指摘できる。そのため今年度の研究では、より客観性を高め、また広い視野から分析を行うため、他大学の研究者にも調査協力を要請し、幅広い実践・学生を対象にした研究を行う予定である。そのための旅費の支出も必須と考えている。さらに、データの客観性を高めるため、高度な統計分析を要する研究を行う予定であり、そのために必要となる統計処理ソフトの購入も計画している。
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Research Products
(4 results)