2012 Fiscal Year Research-status Report
大学生の「分かったつもり」を解消する支援:学校インターンシップを中心に
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23730621
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
田島 充士 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (30515630)
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Keywords | インターンシップ / 分かったつもり / 教員養成 / 大学教育 / FD |
Research Abstract |
本研究は、学生が学校インターンシップに参加することにより、大学で学ぶ知識(「学問知」)に自らの言語認識を閉じる「分かったつもり」と呼ぶ状態を脱し、実践現場で学ぶ知識(「実践知」)との生産的統合を果たすという仮説を検証するものである。本年度は、昨年度に実施したケーススタディによる知見を踏まえ、理論研究および実証的調査による効果検証を深めた。 理論研究としては、ヴィゴツキーおよびバフチン等の言語発達論およびインターンシップに関する先行研究の検証をさらに進めた。その結果、参加学生の言語認識が分かったつもりにとどまることなく、学問知と実践知を独自に接続していく越境的思考を生じさせることがインターンシップの目標になると設定し、このような思考形態を「共創的越境」と呼んだ。 実証研究としては、大分大学教育福祉科学部・森下覚特任助教と連携し、学校インターンシップの効果を測定する客観的研究方法の開発および実施を行った。申請当初は、少人数の調査協力者を対象とした面接調査による効果測定を計画していたが、議論を通し、多人数を対象としたより客観的データ収集を可能とする質問紙調査の開発へと発展した。さらに申請者自身の授業において、実践知と理論知を接続させるための効果的な介入方法についても開発的検証を開始した。 学生を実践現場に派遣し彼らの成長を促進するインターンシップ型の実践が多くの大学で実施されるようになって久しい。一方、その効果について、学問知との接続という観点から理論的・実証的に検証を重ねた研究は少ない。本年度の研究成果は、共創的越境を軸にこの問題に迫り得たという点で重要であり、さらに、学生らの成長を組織的に育成する大学側のフォローアップ教育のあり方について展望する可能性を秘めている点で意義があると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度における理論研究および実証的調査の実施については、当初の計画以上に、順調に達成したと考えている。 理論研究では、新たに「共創的越境」と呼ぶ、インターンシップ実践を評価するためのキー概念の開発を行うことができた。これは全国の大学教育実践において成果を上げている研究者が集まるグループを申請者が中心となって組織し、議論を通して得られた知見である。また本グループのメンバーを編者チームとして、申請者を筆頭編者とする学校インターンシップ研究書の企画を立ち上げ、ナカニシヤ出版から出版確約を得た(2014年度内に刊行予定)。 また大分大学と共同で開発・実施した実証的調査でも、成果を上げることができた。この調査では、学校インターンシップ参加学生・非参加学生22名に対し,不登校生徒への支援計画を立てさせ、さらに自説とは異なる意見を持つ他者に対し自説の正当性を説明させるレポート課題を課した。分析の結果、インターンシップ参加者は非参加者と比較し、自説を一方的にふりかざす(分かったつもりにとどまる学習者の特徴)のではなく、相手の主張の妥当な要素を認めつつ,相互の立場からみて納得できる解決策を模索する交渉姿勢がみられることが明らかになった。これは実践現場で出会う様々な人々の意見との交渉を可能とし、共創的越境へと至る対話力を、インターンシップ参加生が身につけつつあることを示すデータと解釈している。 なおこれらの研究成果の一部は、国内学会で2回、国際シンポジウムで1回、招待講演で2回発表した。また学術論文1本にも分担執筆者として参加した。さらに申請者も編者として関わる、大学教育に関する研究書への章分担3本も執筆を完了し、2013年度内に刊行される予定である。 以上のように研究を組織的に進め、広い視野から生産的な知見を得ることができたため、研究は当初の計画以上に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度の研究成果をもとに、当初の研究計画通り、大学において共創的越境を学生等にもたらす教育的支援のあり方を探る実践法の開発およびその効果検証を行う。また本年度は本補助事業の最終年度でもあり、これまでの研究成果について国内外に向け発表していく。 具体的には、東京外国語大学に在籍し、学外の教育現場においてインターンシップに準じる活動を行う学生等10名程度を対象とした実態調査を行い、彼らが実践現場で直面する課題について考察を深めるために活用が期待できる学問知の種類および教育支援のあり方について検証する。 また東京外国語大学・地域ボランティア受け入れ組織および、大分大学との研究連携を深め、インターンシップへの参加を通した共創的越境を実現する上で有効な教育支援の方法論についても開発を進める。その上で開発した教育支援法を実施し、その効果検証を行う。以上の研究を通し、先行研究では課題とされてきた、インターンシップ参加学生の成長を促進するための大学側の組織的な働きかけのあり方について、効果的なモデル提示を行うことができると考えている。 さらに、これまでの研究成果をまとめ、国内外の研究者に向け発表も行う。すでに査読付を含む学術論文2本の執筆を開始しており、2013年度中の公刊を予定している。また申請者が筆頭編者として出版に関わる、学校インターンシップに関する研究書への章分担2本も執筆を開始しており、2014年度中の発刊を予定している。この他、国内および国外の学会発表も計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度は、申請者の勤務校移動にともない、調査実施を他校と連携して行うことになった。研究連携の可能性を打診し、また研究協議を行うため、旅費の支出が相対的に高くなった。その一方で、開発・実施した調査は、当初予定していた面接法によるものではなく、研究協議の結果、音声データの書き起こしが不要な質問紙法によるものへと発展した。そのため、予定していた調査協力者への謝金経費がかからず、若干、2013年度に繰り越す金額が発生した。 2013年度は、これまでの研究成果を活かした、大学における教育実践プログラムの開発を行う予定である。調査対象者およびデータ収集・分析の協力者への謝金の支出が発生すると考えている。またこれらの研究開発にともなう書籍代・論文購入費用なども必須と考えている。 本年度は本補助事業の最終年度であり、過去年度に収集したデータの再分析も行い、当初の研究計画で掲げた、大学生の「分かったつもり」を解消するための効果的な実践のあり方についての提言をまとめる。データ分析に必要となるツールは過去年度においてそろえてあるが、さらに高度な分析を目指した、補助的なツールなどの物品購入費が発生すると考えている。また本事業による研究成果を発表するため、国内外の学会への出席も計画しており、そのための旅費も必要になると考えている。
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Research Products
(7 results)