2012 Fiscal Year Research-status Report
言語活動促進プログラムが算数の複数解法協調的吟味を促す効果に関する研究
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23730636
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
河崎 美保 追手門学院大学, 心理学部, 講師 (70536127)
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Keywords | 学習過程 / 協調学習 / 言語活動 / 教師の成長 |
Research Abstract |
本研究は,協調的学習理論を深化させるとともに,協調学習を支える言語力の育成という重要課題に取り組むべく,以下の研究を遂行することを目的としている。 第1に,学習場面で「協調的」に言語を使用する効果的な方法を児童らが習得するためのプログラムを小学校の教員と連携して開発・実施する。第2に,算数授業に注目し,1つの問題に対して児童が考案する複数の解法を「協調的」に吟味した場合に期待される学習促進効果,および効果を生じさせる認知的メカニズムを実証的に明らかにする。第3に,以上の二点を進める中で教員に生じる協調的言語活動に対する認識の変容を明らかにする。 研究の二年目となる本年度は,第3の目的を中心に据え,協調的言語活動に対する教員の認識についてのデータを,授業観察,およびインタビューを通じて収集した。さらにそれと並行して,授業観察から得られた授業の特徴を当該教師にフィードバックすることで,授業が変化するかを検討するアクション・リサーチを行った。 具体的には,小学4年生1学級の授業を定期的・継続的に観察・記録し,担当教員が児童の協調的言語活動に対してどのような認識を持っているかを,特に児童の言語活動の充実を図る取り組み初期における懸念や葛藤に注目して,聞き取り記録した。そこから,まず,当該教師は,児童の言語的な活動を重視すると授業時間が超過しやすいといった不安を持っていることが示された。また,授業回数を重ねるにつれ,児童の言語活動を充実させる上での困難として,授業中の発言者が徐々に固定化されていくという問題を教師が認識していることが示された。 以上の教師自身の認識する問題に基づき,授業記録を分析・フィードバックし,授業中の児童の発言行為やそれを支える教師の行為の変化を促す協調的言語活動促進プログラムの枠組みを実践的に開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の2年目となる平成24年度は,プログラム実施期として位置づけ,第1に協調的言語活動促進プログラムの実施,第2に算数授業における複数解法の協調的吟味による学習促進効果とメカニズムに関する調査の継続,第3に,協調的言語活動に対する教員の認識に関する調査の継続を掲げた。 このうち第1の目的については,第3の目的に掲げた調査と連動させ,教師の問題意識に照らした授業観察と記録の分析のフィードバックを行うという協調的言語活動促進プログラムの枠組みを開発・実施した。具体的には,授業時間超過に関する教師の問題意識に対して,観察した授業において授業前に予定された時間配分と実際の時間配分とを比較し,どのような場合に時間の超過が起こりやすいかを分析し,教師にフィードバックした。また,発言者の固定化という問題意識に対しては,教師が発言者にどのような評価を行っているかに注目して授業記録を分析し,フィードバックした。 このように教師の問題意識に対して,それを検証したり改善をはかるために客観的データを収集し,教師が解釈可能なレベルに整理し提供することにより,日常的実践に根差し,かつ,教師の専門的成長を尊重した協調的言語活動促進プログラムの開発が前進したと言える。その一方で,教師の問題意識に即した日常的な授業中の関わりの分析と変化の促進を重視したため,本年度は第2の目的としていた実験的な介入は控えた。これに関しては,1年目の調査結果と本年度の成果を統合することにより,次年度により有効な形で実施することができると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は,今後1年間に次のように推進する計画である。 研究の3年目となる平成25年度は,プログラム評価期として位置づける。第1の目的である,協調的言語活動促進プログラムの開発に関して,1,2年目に得られた示唆に基づき作成した協調的言語活動プログラムを実施する。第2の目的である算数授業における複数解法の協調的吟味による学習促進効果とメカニズムの解明に関して,1年目に実施した調査を,同様に実施し,経年比較を行う。加えて,第3の目的である教員の認識の変容の検討に関して,調査を継続すると共に,1年目,2年目の調査結果を総括し,投稿論文執筆の準備を行う。 なお,平成24年度の収支状況報告書提出時点において未執行の研究費が存在したが,100円未満と小額であり,最終年度である平成25年度の経費に繰り越し,当初の計画通り平成25年度内にすべて執行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主たる使用計画として,電子機器・図書といった設備備品費,データ記録用媒体,調査用紙,文具類といった消耗品費,成果発表・資料収集・研究打ち合わせのための国内旅費,成果発表のための外国旅費,研究補助のための謝金,その他,印刷費・英文校閲費・通信費・運搬費を予定している。 このうち,図書については算数学習・協調的言語活動関連図書を中心に購入する。特に,言語活動の支援プログラムに関する書籍や,新しく出版される関連図書を中心に新たに収集する必要がある。また,調査の実施段階においては,クラス内の各ペア,グループの話し合いの様子を記録するための機器や,調査用紙の作成に要する諸費用,データ保存用のメディア,調査に必要な材料・機器を調査先に運搬するための費用,調査実施における補助への謝金が必要である。さらに,研究成果の公表段階においては,国内外の旅費,学会参加費,英文校閲費,投稿のための郵送費,報告書の印刷費が必要である。
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