2011 Fiscal Year Research-status Report
転換的語り直しによる侵入思考および記憶の過度な一般化への介入効果の検証
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23730645
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Research Institution | Shokei Gakuin College |
Principal Investigator |
池田 和浩 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 講師 (40560587)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 転換的語り直し / 自伝的記憶 / 思考統制能力 / TCAQ |
Research Abstract |
過去の体験の記憶のかたちを意図的に変えて語り直すことは、転換的語り直し(biased retelling)と呼ばれる。この種の語り直しは、語りの出力に沿う形で記憶を変容させる効果を持つという特性を活かしつつ、従来の臨床的な介入法としてよく利用されてきた。しかしながら、転換的語り直しによる効果は、語り手の持つ特性に大きく左右される可能性を持つ。たとえば、意識への不快な思考の侵入(侵入思考)をコントロールする能力の低さや、否定的な記憶からの回避傾向の高さ、自伝的記憶の断片化や概括化といった特性は、転換的語り直しの効果に大きな影響を与えると予測できる。ところが、それらの特性が語り直しに与える心理メカニズムについてはいまだ解明が進んではいない。そこで、23年度は、侵入思考をコントロールする能力を測定するTCAQ尺度を用いて、思考統制能力の高低による転換的語り直しの効果の差異について検証した。実験の結果、思考統制能力が低い場合は、記憶の再生がイベントのネガティブな感情価を緩和させる一方で、能力が高い場合は、感情価ではなく、語り直しが記憶の構造を変化させる効果を持つことが認められた。また、思考統制能力の高さとプロトコルへの転換的語り直しの効果はトレードオフの関係にあることが推察された。つまり、思考統制能力が低いものほど、転換的語り直しが効果的に影響するといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では23年度には複数の実験を行う予定であったが、報告可能な研究成果は予想を若干下回ったと考えられる。第一の理由は、申請者が2011年の4月から新しい所属に移ったため、それまでの公務バランスに多少変化が起きたことにある。また第二の理由として、2011年3月11日に起きた巨大地震によって、職務の開始そのものが遅れ、年間の公務スケジュールにずれが生じたたことが挙げられる。申請者の所属は、東日本大震災の中心地に立地しているため、2011年度は年間を通してその対応に追われていた。これらの理由により、現在の研究の達成度は目標から多少遅れていると評価せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は研究が目標に比べ若干遅れている状況にあるため、24年度は目標水準まで研究計画を戻すことに努める。即ち、否定的な記憶からの回避傾向の高さや、自伝的記憶の断片化や概括化といった特性が転換的語り直しの効果にどのような影響を与えるのかについて、実証的な検討を行う。また、語り直しのタイプや表出形態を規定する語り手の特性について複数の特性間の影響力を把握することで、侵入思考や記憶の概括化の回復に最も効果的な転換的語り直しモデルの検証を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の予定通り、24年度は、国内の研究成果発表の旅費(認知心理学会第10回大会、日本心理学会第76回大会、東北心理学会第66回大会)と実験の謝金(参加者への実験報酬、実験者への実験補助費)、データ分析(テープ起こし)に研究費を使用する。また、昨年検証することができなかった心理的特性(回避傾向、断片化・概括化)にかかわる実験を行うため、23年度から繰り越した研究費を、実験の謝金およびデータ分析に使用する。
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