2012 Fiscal Year Research-status Report
転換的語り直しによる侵入思考および記憶の過度な一般化への介入効果の検証
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23730645
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Research Institution | Shokei Gakuin College |
Principal Investigator |
池田 和浩 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 講師 (40560587)
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Keywords | 転換的語り直し / 自伝的記憶 / 思考統制能力 / TCAQ / TAC24 / 自己欺瞞 |
Research Abstract |
過去の体験の記憶のかたちを意図的に変えて語り直すことは、転換的語り直し(biased retelling)と呼ばれる。この種の語り直しは、語りの出力に沿う形で記憶を変容させる効果を持つという特性を活かしつつ、従来の臨床的な介入法としてよく利用されてきた。23年度は、侵入思考をコントロールする能力を測定するTCAQ尺度と語り直しの効果について検証した。 これを受けて、24年度では、TCAQと語り直し効果の関連性をさらに詳しく分析した。その結果、TCAQの一要因である“心的苦悩”因子の高さは語り直し後のネガティブ語数を減少させる効果を持ちうるが、“思考の侵入”得点の高さはネガティブ語を増加させることが明らかになった。 続いて、出来事を肯定的に解釈し記憶を変容させる能力の高さの影響要因について、質問紙による検討を行った。調査では、TAC24の一因子である“肯定的解釈能力”の高さと、自己を脅かす情報を否認しながら自分自身を肯定的にみる無意識の傾向である“自己欺瞞”の関係性を分析した。調査の結果、肯定的解釈の能力の高さは、自己欺瞞の高さを予測するものであった。 これらの結果は、記憶を肯定的に語り直すための基本的な認知機能を明らかにするものである。特に、自己欺瞞能力の高さと肯定的解釈能力に正の相関が認められたことには、その背景にレジリエンスの効果が存在することが推測される。また、こうしたレジリエンススキルが低い場合は一律に、精神的な健康に有害な影響を及ぼすというわけでもなく、肯定的な解釈能力が、自己欺瞞能力を補完するように作用することも確認された。意識的な語り直しを反復して行うことが、肯定的解釈能力の評価向上につながるのであれば、その後のTCAQの得点に大きな変化が現れると推察される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年の震災の影響により、23年度に行う研究に遅れが生じたものの、24年度には昨年度の予測に沿った研究報告を行うことができた。しかしながら、24年度の一連の研究成果を鑑みることにより、転換的語り直し効果に強く影響する認知的スキルがいくつか確認された。25年度では、これらの影響因子に注視していかなければならないと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、25年度の研究では、転換的語り直しの効果に強い影響を与えると考えられる認知的な背景因子のさらなる特定を進めることが喫緊の課題である。また、それら因子と侵入思考傾向および過度な記憶の一般化傾向の関連性を特定する必要がある。さらに、これらの効果検証に加え、生理学的なデータ分析を取り入れることで、データの客観的な考察を可能にしていきたい。これらをまとめることで、侵入思考や記憶の概括化の回復に最も効果的な転換的語り直しモデルの検証を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の予定通り、25年度は、国内の研究成果発表の旅費(認知心理学会第11回大会、日本心理学会第77回大会)と実験の謝金(参加者への実験報酬、実験者への実験補助費)、データ分析に研究費を使用する。また、語り直しの効果を生理的な側面から客観的に測定するための、実験機材を購入する予定である。
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