2011 Fiscal Year Research-status Report
「非病理的解離」のメカニズムの解明―いじめ悪質化との関連から―
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23730651
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
廣澤 愛子 福井大学, 教育地域科学部, 准教授 (10345936)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 正常な解離 / いじめ / 病的な解離 |
Research Abstract |
現代青年に特徴的である「正常な解離」という心理的特性について、それを測るための質問紙を作成し、予備調査を行った。 具体的には、大学生へのインタビューや解離に関する研究者からのアドバイス、既存の尺度などを参考にして質問紙項目を作成し、予備調査を50名の大学生を対象に実施した。その結果を分析して質問紙項目の精選を行い、本調査を作成した。ここまでのプロセスを、逐次、国内の解離研究者との研究会などで発表してきたが、その成果については、今年度の心理臨床学会などで報告する予定である。 さらに、「正常な解離」を測る質問紙を作成する際に、「正常な解離」と「病的な解離」の違いを明確にするべく、病理性の強い解離性障害者への心理療法過程の分析を行った。現段階においては、「正常な解離」と「病的な解離」は、同じスペクトラム上に位置するとみるよりも、質的に異なる側面を持っていると考えるほうが適切ではないかという仮説を得ている。この点については、解離研究に関する重要な知見であるので、この知見を得る過程で明らかになった研究成果について2本の学会誌論文としてまとめ、1つは学会誌に掲載済み、もう一つは現在投稿中である。 今後は、これらの研究結果に基づき、(1)「いじめ悪質化」との関連を探るために、いじめに関する質問紙を作成する、(2)いじめに関する質問紙が作成したのちに、「正常な解離」に関する質問紙と併せて大学生に対して本調査を行う(400名程度を予定)、(3)これらの結果を内外の学会などで報告する、という手順で研究を行うことを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一の理由は、当初予定したところまで(予備調査を実施し、本調査を作成する)、作業を達成できていることである。正常な解離を測定するための質問紙は、国内外を見渡してみても非常に少ないため、この質問紙を作成することが本研究の大きな目的の一つである。第二の理由は、「正常な解離」と「病的な解離」の違いを明らかにする仮説を提唱できた点である。「正常な解離と病的な解離との関係」は、解離に関する研究において最も注目されている事柄の一つであり、臨床家・研究者ともに関心を抱く人が多い。その点について、一つの仮説として、「病的解離と正常な解離は質的に異なるのではないか」という考えを提唱できたことは、非常に意味があると思われる。この質的に異なる点について、さらに詳しく検証することを今後の課題と考えている。第三の理由は、研究の過程において、さまざまな解離に関する研究者からアドバイスを得ることができ、研究内容について多角的に検討する時間が持てた点である。それによって、より質の高い研究を実施することができた。 以上の3点が、本研究がおおむね順調に進展していると考えている理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向性として、まず、「いじめの悪質化」を測る質問紙を作成する予定である。これは、いじめに関する内外の研究を概観するとともに、いじめ被害者・加害者との心理療法プロセスの分析に基づき、質問紙項目を作成する。現代青年にみられる「いじめ悪質化」という現象を、的確かつ広く網羅するような質問紙項目を作成するよう試みる。 次に、「いじめの悪質化」を測る質問紙項目と、昨年度作成した「正常な解離」を測定する尺度とを併せて、本調査を実施する予定である。対象者は大学生、400名程度と考えている。解離という心理機制が、いじめの悪質化と関連があることを明らかにしたいと考えている。 これらの調査の分析を今年度の後半に行い、来年度においては、これらの研究結果を内外の学会等で発表し、学会誌論文としてまとめる予定である。 「解離」という臨床群を対象として研究されてきた心理的特性を、現代青年の特性ととらえ直し、その弊害の一つとしての「いじめ悪質化」との関連を明らかにすることが本研究の最大の課題であるが、今年度の調査結果によって、それがある程度実証できると思われる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の残額と併せて、今年度は50万円の研究費(支出)を見込んでいる。使用計画は以下のとおりである。1.施設備品費:書籍(「いじめ」および「解離」に関する文献)80,000円2.消耗品費 :記録媒体50,000円、印刷用紙50,000、など。3.旅費 :専門的知識の提供(1人×5h)100,000円、資料整理(2人×20h)40,000円、成果発表(心理臨床学会・発達心理学会・日本心理学会)100,000円4.その他 : 印刷費60,000円、通信費20,000円
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