2012 Fiscal Year Research-status Report
がん患者家族が体験する急性ストレス反応に関する臨床心理学的研究
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23730655
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
三谷 聖也 愛知教育大学, 教育学部, 講師 (00565898)
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Keywords | がん / ストレス / 臨床心理学 / 家族支援 / 支援者支援 / ブリーフ緩和ケア |
Research Abstract |
本研究は,がん患者家族の体験するストレス反応とその予後についての検討を目的として行われた。がん患者を支援する医療者との共同研究会の開催や支援者へのインタヴュー調査などの方法によって,がん患者への包括的支援のための新たな支援モデルが開発され,そのモデルの精緻化等が取り組まれてきた。 この支援モデルは「ブリーフ緩和ケア」と名付けられ,がん患者およびその家族,支援者の有するこころの自己治癒力を最大化するためのアプローチが提案されている。これはがん患者や家族の何らかの欠損した部分を医療者が補完するという考え方ではなく,がん患者を含め患者家族などには自分で自分を癒す力を有しているものと考えるものである。 具体的には亜急性型疾患であるがんという疾患をめぐり生じる患者個人や家族,支援者のさまざまなこころの反応を,1)「問題」としてのみ扱うのではなく,2)「非常事態における正常な反応」であると見なすこと,3)がん患者を取り巻くすべての人々の「解決」への試みとして見なすこと,4)我が国の文化や価値観を尊重した理解や支援をすること,という考え方を内包しているものである。 本研究を通して得られた成果の一部としては,支援者対象のアンケート調査やインタヴュー調査の結果により,支援者にがん患者や家族の呈する急性ストレス反応を「異常ではなく非常事態における正常な反応」とみなす理解を促すことや,がん患者への支援に携わる支援者へのコンサルテーション等による支援者支援によって,支援者のバーンアウト予防につながるという意義が見出されている。 これらの結果は,がん患者への安定的で確実な包括的支援を保障する組織づくりにつながるという点で,今後の我が国における緩和医療を拡充する上で重要なものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
東日本大震災の影響によりがん患者家族の急性ストレス反応の正確な測定に支障が生じてきてしまったため,研究の目的は維持しつつも方法の変更を行うことによってその達成を試みてきた。すなわち,がん患者家族への大規模な量的な調査ではなくインタヴュー調査等を中心とした少数事例の質的研究,がん患者の支援者への各種調査を中心とした研究へと変更を加えてきた。このような研究計画の調整に加え,東日本大震災の影響により調査フィールドの変更を余儀なくされたことから,研究の遂行に遅れが生じてしまっており,研究期間の延長を申請した。そのため評価としては遅れているとした。 これまでの達成度としては,がん患者とがん患者に関わる全ての人々への包括的な支援としての新たな支援モデル―ブリーフ緩和ケア―の開発がなされており,現在はそのモデルの精緻化に取り組んでいるところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,亜急性型疾患であるがん患者とがん患者に関わる全ての人のストレス反応の検討を通して提案された「ブリーフ緩和ケア」のモデルの精緻化を目指すというアプローチによって,亜急性型疾患としての側面を持つがん患者への包括的支援のあり方を検討していく計画である。 具体的にはブリーフ緩和ケアのモデルは,支援者を中心に得られた質的データを基に作られたものであることから,今後はがん患者家族の体験を基に,支援モデルの改良をしていくことが課題と言える。また一部の調査結果により示唆を受けたブリーフ緩和ケアと危機管理との両立を検討することを通した,さらなるモデルの改良を目指していくことも課題と言える。さらにがん患者およびその家族や支援者のこころの自己治癒力を最大化するために支援者として用いる言語についても今後の研究課題としたい。 これらの課題を実現すべく,支援者へのインタヴューおよびがん患者家族へのインタヴューを基に少数事例の詳細な検討から,支援モデルの精緻化を目指していくこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ブリーフ緩和ケアの支援モデルに改良を加えるために行われるがん患者家族へのインタヴュー調査に関わる諸費用や、インターヴュー調査の逐語録作成に関わる業務への謝金、がん患者および家族を支援する支援者支援を主たる目的として行われる彦根市立病院緩和ケア部カンファレンスおよび滋賀ブリーフ緩和ケア研究会への参加に関わる旅費,研究成果報告のための学会参加のための諸費用などを研究費の使用計画としている。尚、次年度使用額が生じた理由は、東日本大震災の影響により予定していた調査ができなかったため残額が生じてしまったためである。
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