2012 Fiscal Year Research-status Report
認知行動療法の効果基盤となる注意制御プロセスの解明
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23730673
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Research Institution | Nagoya University of Arts and Sciences |
Principal Investigator |
今井 正司 名古屋学芸大学, ヒューマンケア学部, 講師 (50580635)
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Keywords | 注意訓練(ATT) / 状況への再注意法(SAR) / ディタッチト・マインドフルネス(DM) / 注意制御 / メタ認知療法 / OCD / SAD |
Research Abstract |
制御の問題が指摘されている社交不安障害(SAD)傾向を有する大学生と強迫性障害(OCD)傾向を有する大学生を対象に、Wells(2009)が開発した「状況への再注意法(SAR)」と「注意訓練(ATT)」に準じた実験を実施し、注意制御様式の異同について検討を行った。その結果、SADにおいては情報入力系に関する注意制御に障害が認められた。また、OCDにおいては入力された情報を処理する際の注意制御に障害が認められた。つまり、SADにおいては、スピーチ時における聴衆に関する情報を適切に入力できていないことが、後の認知的事後処理(PEP)に影響を及ぼしていることが明らかとなった。また、OCDにおいては、ネガティブな自己関連刺激に関する入力処理に関する注意制御の問題よりも、入力後の情報処理に関する注意制御(心配・反芻への集中)に問題があることが明らかにされた。これらの知見から、SADにおいては、情報入力系に関する注意制御の促進を目的としたSARの適用が効果的であり、OCD傾向者においては、情報操作系に関する注意制御の促進を目的としたATTの適用が効果的であることが示唆された。 SADにおける注意制御様式の移動に関する知見をふまえて、SAD傾向の大学生を対象にSARの介入効果の検討及びその作用機序の検討を行った。視線追尾システムを用いて、SAD傾向者における情報入力に関する注意制御様式を把握するとともに、SARにおける「スピーチ時において聴衆の顔をよく観察する」という注意操作の確認を行った。その結果、SAD傾向者は健常者と比較して、顔表情を見る回数が少ないことに特徴があるのではなく、注視時間の短さに特徴があることが明らかとなった。SARを適用することでSADが改善した者においては、聴衆の表情に対する注視時間が長くなり、適切なオンライン処理が実行されていることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、介入に関する作用機序を把握するための実験研究と、それらの知見を活かした介入研究で主に構成されており、一定の期間を要する研究で構成されている。また、臨床心理学的研究という性質上、それぞれの実験および介入においては、安全性の確保などを考慮して、予備実験などを経た後に、本実験に着手する手続きをとっている。3.11震災の影響で、実験及び介入に必要な視線追尾システムの購入において半年程度の遅延が生じたため、全体の計画も半年程度遅れている。しかしながら、実験研究と介入研究において、同時に進行できる部分においては適宜研究を遂行した部分もあるため、「やや遅れている」という達成度である。 研究内容においては、これまでの先行知見について新たな観点から裏付けるエビデンスが得られたことや、効果増強につながる新たな注意制御のメカニズムに関する知見が得られたため、十分な達成が得られていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在進行中の実験研究を継続しながら、介入研究におけるエビデンスを頑健なものにするために、多くの実験参加者を対象に研究を進めていきたい。これまでの研究においては、介入にともなう実験的な性質をもった研究と、介入に関する研究のそれぞれを独立させて研究(予備実験・本実験または介入)を実施してきた。現在までに概ね満足のいく、基礎データを蓄積することができたため、今後(現在進めている研究に関して)は、実験的性質と介入的性質の研究を組み合わせた形で研究を推進していくことで、実験参加者の人数を確保し、本研究の目的である「認知行動療法の基盤となる注意制御メカニズム」について効率よく、効果的にデータを収集したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度までに必要となる研究機材や分析機材に関しては、ほぼ購入済みである(実験で使用するビデオカメラは次年度に購入)。次年度においては、実験参加者への謝礼や、多くの時間が必要となるデータ解析(視線追尾システムにおけるデータ解析、SAD傾向者における発話場面のビデオ解析)に関するアルバイト代に使用する予定である。また、これらの結果を公表するために、国際学会(アジア認知行動療法学会)をはじめ多くの学会に参加する予定であるため、学会諸経費(旅費・参加費など)として使用する予定である。
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