2011 Fiscal Year Research-status Report
外傷体験想起時の認知・行動モデルに基づく心理学的介入の構築とその効果の検討
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23730678
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
大澤 香織 甲南大学, 文学部, 講師 (30462790)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | トラウマ / トラウマティック・ストレス / 外傷体験の記憶 / 想起 / 介入効果 |
Research Abstract |
研究課題の目的を果たすため,当該年度では申請者が作成・実施した心理教育プログラムの内容を再検討し,介入プログラムを外傷体験によるストレス緩和や生活機能改善,および治療への動機づけを高めることを目指すものとして再構築することを試みた。具体的には,同領域における最近の研究知見,実施したプログラムの成果を学会等で公表して得た専門家の意見,あるいはプログラム実施時のセッション内容等を参考資料とし,その内容に基づいて検討を試みた。その結果,より有用で有効なプログラムの再構築には,外傷体験想起時の対処方略について一般的にどのように認識されているかを把握する必要があると考えられた。 そこで,外傷体験想起時の対処方略に対する一般的な認識について調査を試みた。近畿地方の大学生74名(男性19名,女性55名; 平均年齢20.15±1.07歳)を対象に調査を行った結果,一般大学生は想起時において信頼できる他者に相談したり,話を聞いてもらう方略(ソーシャルサポート希求)が最も有効で有用であると考えていることが明らかとなった。先行研究では,この方略に外傷性ストレス反応を低減させる効果はないことが示されており,研究知見と一般認識の不一致が示唆される。したがって,より有用・有効な介入を提供するために,本調査の結果を踏まえ,適切で正しい情報提供(心理教育)を行うことが重要であると考えられる。ただし,サンプルサイズが小さいため,今後も調査を続行し,結果の一般化をはかる必要がある。 また,当該年度では対象者の募集とその工夫,研究実施場所の整備等を行った。特に,当該研究課題の採択年度に申請者が所属機関を異動したことに伴い,研究実施に必要な環境整備(統計処理ソフト等の備品購入,研究実施場所の準備等)を行った。同理由により,研究協力者の募集方法(研究協力機関など)の再検討も行い,現在もその準備が進められている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当該年度では,介入プログラムの内容を再検討したことにより,その改良・再構築に必要な問題点について検討することができた。その検討に時間を要したため,当該年度に実施する予定であったプログラムの効果検討に至っていない。したがって,研究目的の達成度は当該区分の(4)に該当するものとして評価した。しかし,より有用で有効な介入プログラムを提供するためには,不可欠でやむをえない遅延であると考えられる。 また,採択年度に申請者が現所属機関に異動したことに伴い,研究環境も変化したため,その整備(予算に含まれていなかった統計処理ソフト等の研究に必要な備品の購入・準備,研究協力機関の再検討など)にあたる必要が生じ,そのために時間を要したことも当該評価に影響している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では,当該年度で実施した調査を継続し,その成果をまとめる。その内容を踏まえて,再構築された介入プログラムの効果を検討する。具体的には,外傷体験の想起による問題(外傷体験の想起によって積極的な治療を受けられない,あるいはその進行が妨げられている者も含まれる。ただし医療機関を受診中の場合,主治医の許可を得ていることを参加条件とする)や外傷性ストレス反応を主訴とする者を対象とし,介入プログラムを実施する。なお,本研究の基盤となる理論モデルは青年期後期以降にある者を対象として構築されたが,対象者が遭遇した外傷体験は青年期後期より前のものも含まれていた。そこで予防的観点を考慮し,青年期前期・後期にある者(中学・高校生)も対象として含める。 対象者を,プログラムを実施する「介入群」とプログラムへの参加を待機する「Waiting List Contol群(統制群)」の2群に配置し,両群の比較によって効果を検討する。介入群には原則週1回(90分),計6~8回を1クールとして集団でプログラムを実施する。また,介入後1ヵ月にフォローアップを設定し,中長期的効果の検討を行う。なお,介入3ヵ月後のフォローアップも予定しているが,プログラムの進行状況を見て実施を検討・判断する。待機群は介入群と同時期に効果測定のみを行い,介入群の1ヵ月(あるいは3ヵ月)フォローアップ後にプログラムを実施する。 介入プログラムでは外傷体験という私的な出来事に関わるため,研究協力者の募集が課題となる。この点を踏まえ,対象者が参加しやすいように募集内容を工夫する必要があると考え,対応を検討してきた(例えば,体験した出来事について積極的に扱うことはしないことを伝える,研究会の形式をとる等)。その上で,新聞や地域広報誌などへの広告掲載,募集告知用のパンフレットの作成・配布等を行い,幅広く周知・募集をはかる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究協力者を幅広く募集するために,新聞や地域広報誌などに募集の広告を掲載する,募集告知用のパンフレットを作成・配布する等,周知・募集を行うための広告費が必要となる。その広告費用を次年度の研究費より支出する。 再構築されたプログラムに基づき,研究協力者に配布・使用する資料(テキスト)の印刷・製本を行う。その費用も次年度の研究費から支出する。その他にセッション等で使用する資料の印刷として,プリンターやコピー機のインク代,コピー用紙などの消耗品が必要であるため,これらも次年度の研究費で購入する。また,介入の内容を効果的に伝えるためのポータブルのプロジェクタ,介入内容の記録に必要なビデオカメラ(対象者の顔は映さない)とICレコーダ,データを保存するハードディスクが不足しているため,次年度の研究費より追加で購入する。研究実施中,申請者と対象者との連絡に必要な通信費(必要書類の郵送代,電話代)も研究費より支出する。 研究協力者への謝礼は「人件費・謝礼」として研究費を使用する。プログラムの準備・実施や得られたデータ解析の補助作業を,申請者が所属する大学機関の大学生・大学院生・研究生等(研究協力者)に依頼する予定であるが,その謝礼も研究費より支出する。また,外部機関との打ち合わせやプログラム実施に旅費(申請者・研究協力者)または会議費が必要となった場合も,次年度の研究費よりあてる。 研究成果を公表するために,学会等に参加・発表する旅費・会議費を次年度の研究費より支出する。研究成果を学会誌に投稿する,または冊子等にまとめて効果的に広報するために,研究成果発表費用にも次年度の研究費を用いる予定である。
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