2011 Fiscal Year Research-status Report
モダリティや処理水準を越えた溯及的推測の一般原理の解明
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23730707
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Research Institution | NTT Communication Science Laboratories |
Principal Investigator |
河邉 隆寛 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 人間情報研究部, リサーチスペシャリスト (40423511)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 遡及的推測 / ポストディクション / 知覚 / 判断 / 方位 |
Research Abstract |
<具体的内容>感覚系はある瞬間の外界の姿を判断する際に、その瞬間に前後する時間的文脈を利用することがある。特に時間的に後で利用可能な情報(事後情報)を利用して、それ以前の外界の姿に関する判断を下す特性を遡及的推測と呼ぶ。遡及的推測はポストディクションとも呼ばれる。遡及的推測は、フラッシュラグ効果や仮現運動など一部の知覚現象でのみ詳しく調べられてきた。その一方で、遡及的推測のメカニズムは未だ解明されていない。本研究では、心理物理学実験を通して、遡及的推測に係わる一般原理の解明を目指す。 平成23年度は(1)遡及的推測が視覚方位の判断についても生じるかどうか、(2)遡及的推測は、事後情報への気づき無しにも生じるか、という2つの問題を検討した。具体的には、瞬間提示された方位の判断が、100ミリ秒後に提示された方位にバイアスを受けるかどうかを検討した。また、事後的な情報に対する気づきの貢献を検討するために、100ミリ秒後に提示される方位刺激にバックワードマスキングをかけ、事後的な情報の視認度を低下させた場合にも方位の遡及的推測が生じるかどうかを検討した。 その結果、(1)遡及的推測は視覚方位の判断においても生じること、及び(2)遡及的推測には、事後情報への気づきが必要であること、の2点が明らかとなった。<意義と重要性>これまで遡及的推測のメカニズムは明らかになっていなかった。本研究は、遡及的推測に事後情報への気づきが必要であることを示した。この知見は、人間の知覚判断を明らかにする上で意義深く、大変重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
成果を論文発表した。Kawabe, T. (2012). Postdictive modulation of visual orientation. PLoS ONE 7(2): e32608. doi:10.1371/journal.pone.0032608 交付申請書では、当年度の目的として、「平成23・24年度は、モダリティ内及びモダリティ間情報によって定義された刺激において、跳躍錯覚、運動バイアス効果が生じるかどうかを検討し、錯視量がベイズ確率論によって説明可能かどうかを検討する。」が掲げてある。 平成23年度は、運動バイアス効果と類似した実験状況において視覚方位の判断が事後情報によって影響を受けることを示した。この点で、交付申請書に記した目的を達成していると思われる。 更に平成23年度は、運動バイアス効果と類似した条件下における方位の遡及的推測に、事後情報に対する気づきが必要であることを示した。この問題の検討は当初予定していなかったが、遡及的推測メカニズムを明らかにする上で必要であると判断し、遂行した。結果として、遡及的推測には事後情報への気づき(もしくは事後情報の高い視認度)が必要であるという結果を得ることができた。これにより、本年度の成果は遡及的推測メカニズム解明へ貢献したと考えられる。以上のことより、本年度の成果は当初の計画以上に進展したものであるとみなすことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も交付申請書に書いた目的に沿って研究を行う。具体的には、(1)遡及的推測に係わるメカニズムを数理モデルを用いて検討し、更には(2)モダリティを超えた遡及的推測過程の検討、(3)自己運動時の遡及的推測に係わる現象の検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、今年度しなかった69090円も研究費として計上し、視覚・聴覚・触覚刺激提示の時間精度を向上させる機器の購入を検討している。この機器の計上は、上記(2)の目的遂行のために必要であると考えている。残った研究費は、実験参加者への謝金としての計上を考えている。
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