2012 Fiscal Year Research-status Report
『エミール』再考‐宗教を基盤に据えた人格形成論として‐
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23730723
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田中 マリア 筑波大学, 人間系, 助教 (20434425)
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Keywords | ルソー / 近代教育思想 / 道徳教育 / 宗教 |
Research Abstract |
本研究の目的は、近代教育思想の祖と評されるルソー(J.J.Rousseau.1712-1778)の教育思想について、それがキリスト教的な倫理観を基盤にして構想されたものであり、宗教なくしては成立し得ない人格形成論であったという観点に立ち、これまで概して、近代啓蒙主義的ヒューマニズムの流れの中で合理主義的に解釈されることの多かった『エミール』を、宗教的世界観との連続性に着目しつつ、全面的にとらえ直すことである。「研究実施計画」に示したとおり、本年度(平成24年度)は、前年度(平成23年度)に調査・収集した資料の読解・分析を行いつつ、並行してルソー生誕300年記念事業に参加し、できるだけ最新の動向を把握するよう努めた。参加した記念事業の講演集や発表論文集などに関しては、刊行されるのが来年度(平成25年度)以降の予定であるため、具体的な内容に踏み込んだ検討は最終度に反映させる予定である。 本年度は差し当たり、300年記念事業の概要について、とくにルソー研究の聖地であるジュネーヴと本国の動向を中心に報告書を作成した。また、論文としては、前年度、従来の教育学研究があまり重要視してこなかったルソーの著作群を見直す作業を進める中で着想するに至った『エミールとソフィ』の作品的価値について、改めて内容を発展させ、前年度の論文とは異なる観点から検討し直した論考を、専門の学術学会を通して発表することで本研究の着想をより手堅いものとなるよう投稿を試みた。(本稿はその後、査読の上、掲載が決定した。)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を達成するためには、従来の教育学研究があまり重要視してこなかったルソーの著作群やそれらに関連した史資料を収集、分析することが不可欠であるが、前年度同様、本年度も助成金をいただいたおかげで、とくに先行研究に関して必要があると判断された文献の主たるものを引き続き収集し、読解・分析することができた。とくに、本年度は刊行が遅れていたルソー新全集(スラトキン&シャンピオン版)を全巻、入手することができたことはもちろんのこと、それ以外にも、ルソー研究においては約100年近い歴史と伝統、権威をもつAnales Jean-Jacques Rousseau(ルソー年報)をほぼ、そろえることができたことも、信頼度の高い貴重な研究成果を必要に応じてすぐに閲覧することを可能にさせ、目的達成のための時間短縮、効果的な時間の捻出をもたらし、研究の順調な進展につながったのではないかと考える。さらに、本年度、ルソー生誕300年を記念した事業に参加し、やはり東京国際大会とはまた違った、世界的な研究水準や動向に触れ、本研究の目的達成に向けて大いに刺激を受けたが、こうしたジュネーヴへの国際大会への参加は日本からは4名(うち2名は東京大会の主催者)と少なく、決して安いとは言えない国外出張費を助成していただけたことも研究の順調な進展につながっているのではにかと認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は本年度までで収集・読解した資料を中心としながら、(また、本年度参加したルソー生誕300年記念事業の講演集や論文集などが刊行されたらその内容もできるだけ反映させながら)、最終年度のまとめに向けて取り組んでいくこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、前年度のルソー生誕300年記念事業の講演集や論文集が刊行されたらそれらの成果物の収集と、引き続き刊行され続けているルソー新全集(ガルニエ版)の追加収集、および、最終年度として、国内外の学会参加(発表)や投稿に関わる旅費などを中心に研究費を使用させていただく計画である。
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Research Products
(2 results)