2012 Fiscal Year Research-status Report
近世・近代移行期の職業転換にみる近世の学問の意義と展開
Project/Area Number |
23730740
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
松尾 由希子 静岡大学, 大学教育センター, 講師 (30580732)
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Keywords | 近世教育史 / 近代教育史 / 学習環境 / 学問 / 人的ネットワーク |
Research Abstract |
本研究は、近世において村役人などを勤めた地域の指導者層の人物を対象事例とし、近世までに習得した学問が、近代に入ってからの職業転換などその後の生き方に及ぼした影響について検討するものである。 【内容】 平成24年度は、神職を襲職した家の出身者である内藤東海(1834~1922)を事例とし、平成23年度に残した課題「近代以降に新しく習得した学問と職務との関連」について、人的ネットワークの視角から検討した。東海は、幕末から明治初年という移行期に、国学や俳諧、弓術を学んだ。このような学問習得を支える学習環境の1つに書籍をとりまく人的ネットワークがある。このネットワークは家業のネットワークとも重なり、相互補完的かつ限定的であるという特徴をもつ。東海が書籍を蒐集し、貸し出した人は血縁や家業、学芸において共通しており、互いの蔵書を補完していた。しかし、それは同質性が高いゆえに閉鎖的な関係でもあった。近世において、基本的に書籍は人を選ばず貸し出すものではなく、東海も同様だった。そのため、書籍をとりまく人的ネットワークは強い信頼関係を表すものであり、書籍を介して信頼関係は強化したと考えられる。近代に入り、東海は他地域の教導取締や地元の郵便取締役につき、学務委員を務めるなど、幕末を乗り越えて「出世」した。また、書籍をとりまくネットワークでつながっていた由緒ある中村家に養子入りした。近世までに学んだ学問や教養はその内容だけにとどまらず、学問や家業に関わる人的ネットワークを構築し、近代に入ってからの生き方に影響を与えることになった。 【意義・重要性等】 本研究の意義は、近世近代を貫く視点で行なう実証的な研究にある。平成23・24年度に行なった研究もこの視点に基づいている。また習得した学問内容だけでなく、学習をとりまく要素、特に今年度は昨年度よりも資料を精査して人的ネットワークに着目して研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画段階で予期していなかった病気による手術・治療を行なったため、予定していた資料調査及び分析ができなかった。ただし、予定の一部である学会発表を行ない、そこで得た意見や助言を参考にして、さらに発展させた内容を所属する研究会で発表することができた。また、平成24年度の事例対象である「高原家」の家人の学問や職業に関する資料調査は遂行できた。
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Strategy for Future Research Activity |
【平成24年度の研究課題の発表及び補完】 平成24年度の研究課題については、ほとんど全ての資料調査を終えているため、分析を行なっていく。成果については所属する研究会で発表し、出席者から得た意見や助言を参考にして、論文として投稿する予定である。 【平成25年度の研究課題の遂行】 群馬県の近代初期の教員について、近世までの学習履歴と学習環境について検討する。資料調査を行ない、分析を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
【資料調査】 次年度の研究課題である群馬県の近代初期の教員に関わる資料を収集するため、資料が所蔵されている群馬県立文書館を中心に15日程度の調査を行なう。また、平成24年度の研究課題の補完のため、福岡県立図書館で資料の閲覧や資料撮影を行なう。多くの資料を撮影するため、収集した資料の整理や翻刻補助に関わる雇用を必要とする。平成24年度は【現在までの達成度】で述べた理由により、予定していた資料調査及び分析ができなかったために、研究費を繰り越した。繰り越した研究費については、次年度において、主に資料調査(福岡県福岡市、群馬県)に関わる旅費や分析をする際に必要となる雇用として使用する予定である。 【研究成果の発表】 研究成果を発表するために研究会に参加する。また、研究成果を論文として投稿するため、論文執筆にあたり研究課題に関わる書籍や論文(複写)を必要とする。
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