2011 Fiscal Year Research-status Report
ガダマーの哲学的解釈学を中心とした教養論に関する研究
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23730745
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
大関 達也 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 准教授 (80379867)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ドイツ |
Research Abstract |
本研究の目的は、H.-G.ガダマーの哲学的解釈学を教養論の観点から再検討し、その現代的意義を示すことにある。具体的には、異なる伝統・文化を背景とする他者との対話として教養教育を実現するための方途を探ることが本研究の課題である。 この課題を達成するため、本研究ではまず先行研究の検討を行った。それにより次の点が明らかになった。第一に、日本の教育学研究では教養の歴史社会学的研究、思想史的研究、概念史的研究等が行われてきたが、その多くが市民性や人間性の理念の重要性を再確認するにとどまっており、教養の具体的な内容についても、教養教育の有効な方策についても、いまだ生産的な議論がなしえていない状況にあるという点である。そして第二に、日本の教養概念成立に大きな影響を及ぼしたドイツ語のBildungに関する議論では、意味世界の多元性・相対性を前提としたポストモダンの時代に適合する新しいBildung概念の必要性が指摘されてはいるものの、多元的意味世界における対話として教養教育を実現するための方途が十分に追求されていないという点である。 このような問題点を克服するため、本研究ではガダマーの哲学的解釈学を再検討することとした。具体的には次の作業を行った。第一に、教養や教育に関するガダマーの論文や講演記録を収集し、検討した。国内で入手できない情報・資料については、ドイツのハイデルベルク大学付属図書館等にて収集した。第二に、ガダマーの詩解釈や脱構築に関する論文を他者との対話という観点から検討した。その際に、ガダマー解釈学の現代的意義について、ミュンスター大学のS.ヘレカンプス教授(専門:一般教授学)とメールで意見交換を行った。 以上の研究活動を通して、他者との対話として教養教育を実現するための理論的基盤を獲得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度における本研究の到達目標とその達成度は次のとおりである。 第一に、日本における教養概念成立の歴史的・社会的コンテクストの解明については、先行研究となる資料の収集・整理を行っているところである。特に現代における教養をめぐる諸課題の検討については資料収集にとどまっており、それらを一つ一つ精査するには至っていない。今後、従来の教養概念とPISAのリテラシー概念を比較検討することが必要である。 そして第二に、日本における教養概念成立に大きな影響を及ぼしたドイツ的教養の生成過程、史的変遷、現代的課題の解明については、現在、先行研究となる資料を収集したところであり、その翻訳・検討が課題として残されている。特に、現代ドイツにおけるBildung論議を、意味世界における多元性・相対性を前提とした人間形成論という視点から検討することが必要である。 さらに第三に、ドイツ的教養の現代的課題の克服という視点から、ガダマー解釈学の可能性と限界について検討することである。この点については、現在、ドイツ・ミュンスター大学のヘレカンプス教授へのインタビューや英語圏での最新の議論を参照しつつ考察を進めているところである。特に、これまで十分に検討されてこなかったガダマーの詩解釈や脱構築に関する論文の再評価を行うことが今後の課題である。 以上のように、本研究は現在、収集した資料の翻訳や検討を行っているところであり、いまだ学会発表や論文発表には至っていない。また、先行研究となる資料の収集も今後引き続き行う必要がある。よって、評価としては「やや遅れている」となる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の成果と課題を踏まえ、今後は次の作業を行う。 第一に、日本における教養概念成立の歴史的・社会的コンテクストの解明については、引き続き資料の収集・整理を行う。特に従来の教養概念とPISAのリテラシー概念に関する先行研究を一つ一つ精査することにより、両概念の比較検討を行い、新しい教養教育の理念と方法について展望する。 第二に、日本における教養概念成立に大きな影響を及ぼしたドイツ的教養の生成過程、史的変遷、現代的課題の解明については、引き続き資料を収集し、その翻訳・検討を行う。特に、現代ドイツにおけるBildung論議を、意味世界における多元性・相対性を前提とした人間形成論という視点から検討する。その際に、PISAショック以降のBildung論議の変化、特にリテラシーやコンピテンシーの概念が従来のBildung概念に与えた影響についても考察する。 第三に、ガダマー解釈学の現代的意義の解明については、引き続き、ドイツ・ミュンスター大学のヘレカンプス教授との意見交換や英語圏での最新の議論を参照しつつ考察を進める。特に、これまで十分に検討されてこなかったガダマーの詩解釈や脱構築に関する論文の再評価を行う。 以上の作業を進めることにより、異なる伝統・文化を背景とする他者との対話という視点から、教養教育の理念、内容、方法、実践的展開の可能性について探究する。その研究成果は、日本ディルタイ協会、教育思想史学会、教育哲学会等、専門学会での口頭・論文発表により公表し、報告書にまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度未使用額(352,440円)については、主として専門学会への一部不参加に伴う出張旅費の未使用、関連図書の別途購入による図書経費の未使用、プリンター他、パソコン関連機器等の別途購入による物品費の未使用により生じた。よって、次年度以降は引き続き研究計画を遂行するため、特に未購入の関連図書を迅速に購入するとともに、学会発表等による出張の準備をより計画的に行うこととする。 前年度未使用額(352,440円)と次年度に申請する額(100,000円)を合わせた研究費(452,440円)の使用計画は次のとおりである。専門学会での発表・情報交換に関連する費用(旅費)として250,000円。ガダマー解釈学・教養教育関連図書の購入のための費用として150,000円。プリンターその他、パソコン周辺機器の購入のための費用として30,000円。その他、消耗品、資料複写費、通信費として22,440円。
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