2012 Fiscal Year Annual Research Report
ガダマーの哲学的解釈学を中心とした教養論に関する研究
Project/Area Number |
23730745
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
大関 達也 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 准教授 (80379867)
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Keywords | 対話 / 教養 / 哲学的解釈学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ガダマーの哲学的解釈学を教養論の観点から再検討し、その現代的意義を提示することにある。すなわち、差異や異質性の経験を内包したポストモダン的世界において、教養はいかにして可能か、という問いを立て、そうした観点からガダマーの教養論、および哲学的解釈学における他者との対話の問題について検討することを課題とした。 まず、ガダマーの教養論から明らかになったのは、自己教育、あるいは自己陶冶が他者とのかかわりの中で対話を通して行われるという点である。異質な世界に慣れ親しむという陶冶のプロセスは対話によって実現する。そのプロセスは教育者によって操作できるものではない。それゆえに、ガダマーの教養論は差異や異質性の経験を内包した対話の理論として示唆に富む。 しかしながら、ガダマーの教養論は学ぶという行為のみが重視されており、教えるという行為を積極的に論じたものではない。そのため、教える者から見た学ぶ者の他者性が主題にならない。この点は、哲学的解釈学における他者との対話の問題に通じている。すなわち、予測不可能な他者に対し応答する責任を負うことを倫理とみなす脱構築の視点は、哲学的解釈学の問題性を浮き彫りにしている。教育者の教育的行為を他者への応答として積極的に捉えていく方向性が示されていない。 このような問題点がある一方で、伝承された文化内容との対話に取り組む哲学的解釈学は、「文化の公共圏」を形成するための論理が明確ではない市民的教養の理論を補うことができる。こうした哲学的解釈学の長所を生かしつつ、他者との対話の原理に支えられた教養の概念規定、教養に必要な内容の選択、教養教育の有効な方策をいかにして具現化するかが、今後検討すべき課題である。
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