2011 Fiscal Year Research-status Report
韓国における教育政策過程に関する実証的研究-塾規制政策の解明と分析
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23730752
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 光晴 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 助教 (00583155)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 私教育 / 韓国 / 政策過程 / 塾 / 放課後学校 |
Research Abstract |
平成23年度は、2年計画の1年目にあたり、基本文献、先行研究の収集を中心に研究を進めた。具体的には、「7・30教育改革」(1980)、「私教育費軽減方案」(2004)、各種議事録等を中心にして研究を進めてきた。また、韓国教育科学技術部を訪問し、政策立案担当者にヒアリング調査を行なった。これらの作業を通じて得られた成果は以下の通り。まず、韓国政府が講じた私教育政策の中でも比較的直接的な政策として位置づけられる「7・30教育改革」(1980年)を対象に、政策過程を分析した。入試問題と地域間格差の問題により、私教育問題が単なる個人の問題ではなく、国家的な社会問題となり、私教育という私的領域に国家が規制をかけざるを得ないという状況が生じた。その対応策として打ち出された「7・30教育改革」は、「教育正常化」と「過熱課外の解消」の2本柱から構成されており、特に高等教育の機会拡大を達成することと、学院に直接的な規制を加えるということが特徴であることが明らかになった。2004年に発表された「2・16私教育対策」が、それ以前の私教育政策と大きく異なるのは、2000年に「7・30教育改革」が違憲判決を受けたことによって、私的領域を直接的に規制する従来の対策とは別の私教育対策が求められるようになった点である。しかし、家計における私教育費は増加傾向にあり、社会問題であることは1980年代と変わらず、政府としても対応をせざるを得なかった。この私教育政策の形成において主導したのは、教育人的資源部(現、教科部)であった。興味深いのは韓国教育開発院において私教育と公教育の連携が提案されていたことである。規制から協力関係の構築という、これまでの私教育政策とは真逆の発想が生まれていたのである。しかし、最終的に報告書に採用されたのは、大統領の強い要望もあり「私教育機能を公教育内に取り込む」という方針であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の1年目となる平成23年度は、基礎的研究を行なうとともに、教育行政組織と塾団体を主な対象として調査・研究を実施した。具体的には以下の3点について作業を行なった。(1)韓国で近年出された私教育政策に関連する政府報告書や教育計画を分析し、私教育政策が推進されている政策的背景を探った:具体的には、「世界化・情報化時代を主導する新教育体制樹立のための教育改革方案」(1995)、第1次国家人的資源開発基本計画」(2001)、「私教育費軽減方案」(2004)、「放課後学校運営計画」(2006~各年)、「放課後学校関連統計資料」(2007~各年)等を分析した。(2)行政担当者および塾関係者へのイタビュー:韓国教育技術科学府 金栄権調査官(私教育担当者)をはじめ、韓国塾総連合会(8割の塾が加盟)の金済完事務総長への聞き取り調査を通し、私教育政策への視点と反応を整理した。(3)放課後学校への着目:調査を進める中で、現在韓国で推進されている「放課後学校」政策の調査も同時並行的に行なっている。「放課後学校」政策は本研究が目的とする韓国における「公私」関係を見るうえで欠かすことができない。以上の成果は、日本教育新聞(2012年2月20日、2月27日付)、カレイラ松崎順子著『韓国の英語教育とEBSe の果たす役割』(pp.44-53)にて公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の2年目となる平成24年度は、教員団体および保護者団体を主な調査対象とする。前年度の行政・塾団体に対する調査・研究結果と合わせて分析することで、私教育政策のアクター間の葛藤や妥協あるいは協力といった側面が浮き彫りになる。そして、これまでの調査・研究結果を総合して韓国における私教育政策の政策過程分析を行ない、韓国における公私教育の特質を明らかにする。具体的には以下の3点について作業を行なう。(1)教員団体については、全国教職員組合および韓国教育総連盟などの教員団体を対象とする。もちろん組合組織という性格上、一定の留意が必要であるが、政策過程段階においてはもっとも影響力があり、教員代表として位置づけられる団体である。保護者団体としては、「真の教育学父母会」や「正しい教育明るい世界学父母会」など、韓国を代表する学父母会組織を対象に、塾へのまなざしや私教育政策への認識を聞き取り、政策過程にどのように作用しているのかを調査する。(2)初年度の結果から生じた追加課題、すなわち「放課後学校」の実態解明についても資料を随時収取し、私教育政策としての位置づけを分析し、本研究に深みを付けていく。具体的には、研究指定校を訪問し、授業参観、教員へのインタビューを通し実態を記述する。(3)これまでの調査・研究結果を総合し、韓国における私教育政策の全貌を解明する。特にこれまで分析方法として用いられなかった政策過程分析のイシューアプローチを用いることによって、あらたな政策過程の側面が明らかになると考えられる。ひいては、韓国におけるそれぞれのアクターが公私を如何に考えているかが浮き彫りになる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
【外国旅費】(ソウル:計4回)初年度同様継続的に現地調査を実施する。初年度調査対象者への追加調査及び、本研究が対象とする政策立案者へのさらなる聞き取りと、24年度の主目的である保護者団体および教員へのインタビューを実施する。また「放課後学校」実施校への訪問調査・参観データを可能な限り蓄積していく。(40万)【国内旅費】学会発表(随時)・資料収集(日本私塾情報センター、塾教育研究会)を行う。本研究の調査を、日本比較教育学会(福岡)、九州教育学会(佐賀)、アジア教育学会(名古屋)、日本特別活動学会(愛媛)にて随時発表し、同分野研究者と意見交換を通し、研究をまとめていく。(20万)【謝金】調査先への謝金。(5万)データ整理、資料収集、文献翻訳、現地通訳など資料整理係を雇用する。(5万)
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