2011 Fiscal Year Research-status Report
エビデンスベース評価の影と向き合う:教育の質評価に関するシミュレーション研究
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23730756
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
渡邊 席子 大阪市立大学, 大学教育研究センター, 准教授 (60320579)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | コンピュータ・シミュレーション / 教育 / 評価 |
Research Abstract |
本研究は、昨今大学を取り巻く環境が急激に変化していく中で、教育成果のエビデンスをわかりやすい形で求められることに困惑しときに過剰適応する大学と、エビデンスベース評価を行う側の能力的信頼性と妥当性の不確かさが相乗することによって生じる教育評価の「影」の部分に向き合うことを通じて、エビデンスベース評価が真に意味をもち、よりよい教育が維持・促進された状態とはいかなるものなのか、その全体像を探ることを目的とした探索的コンピュータ・シミュレーション研究である。 研究期間内で明らかにすべきは、意義あるエビデンスベース評価が運用されている状態がもしも存在するのならば、そのとき大学の構成員(学生・教職員等)はどのような状態にあり、大学を取り巻く環境はどのような様相を呈しているのかである。この問題にアプローチするため、本研究は、仮想世界における組織・個人間の相互作用と創発性を扱うことを可能とするコンピュータ・シミュレーションモデル「多重地理的移動性モデル(Computer Simulation Model with Multiplex Geographic Mobility)」を研究期間の半分強を使って構築し、教育の評価の在り方を問おうとしている。 平成23年度は、過去の研究にて開発済みのプログラムソースコードを現在のプログラミング環境でも使うことができるようサルベージしつつ、モデル構想に基づいたプログラムパーツを作成した。また、複数のパーツを組み合わせ、デバッグを兼ねて、評価される側(大学)と、評価する側(外部評価者)のみを想定した基礎プログラムを構築したところ、(1)(教育的)実力のある大学が強い可能性、(2)実力エビデンスの見せ方のうまい大学が強い可能性、(3)外部評価者側の力量の正確さはあまり大きな影響をもたない可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請当初の予定において、平成23年度は、本研究の根幹作業として多重地理的移動性モデルの具現化を行うこととなっていた。コンピュータ・シミュレーションは、現実世界ですぐに実行するのが困難な事象や、本当に実現するのが望ましくない事象等を、現実的なリスクを回避してシミュレートするための一種の計算機である。そこで、平成23年度はまず、本研究にて構築される多重地理的移動性モデルの原型であり、過去の研究において一定の成果を挙げている地理的移動性モデルのプログラムソースコードを現在のプログラミング環境でも使うことができるようサルベージし、本研究における多重地理的移動性モデル具現化のためのプログラムパーツとして可動できるかどうかの確認作業をすすめた。 上記作業の結果、平成23年度は、(1)仮想世界における各エージェントの特性付与プログラムパーツ、(2)各エージェントの特性進化(淘汰)プログラムパーツ、および、(3)多重地理的移動性モデルにおける各エージェントの概念座標設定プログラムパーツの作成が予定通りに終了した。また、(1)と(2)のパーツのデバッグ・点検をかねて、評価される側(大学)と、評価する側(外部評価者)を想定した基礎プログラムを構築してデータをとり、先述の研究実績の概要に示した可能性を示唆した。 以上より、平成23年度の研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、平成23年度から引き続きプログラムパーツのサルベージ・作成・点検を行うとともに、それらを組み合わせてプログラム全体を完成させる。あわせて、完成したプログラムのデバッグを慎重に行う。また、プログラム完成後は、さまざまな社会環境条件を設定してプログラムを走らせることによって、大学構成員、大学、および大学にかかわる各種ステークホルダーが教育評価文化の中でどのような適応的特性をもち、安定的な社会関係を築きうるのか、さらに、教育評価文化そのものがどのような適応的変化を遂げるかに関するデータ収集・分析・考察をすすめる。 なお、先述のように、平成23年度、評価される側(大学)と、評価する側(外部評価者)を想定した基礎プログラムを構築したところ、(1)(教育的)実力のある大学が強い可能性、(2)実力エビデンスの見せ方のうまい大学が強い可能性、(3)外部評価者側の力量の正確さはあまり大きな影響をもたない可能性が示唆されている。上記の結果が、今後各種ステークホルダーや社会・環境要因に関するパラメータを追加した状況においても同様に観察されるかどうかについてもあわせて、平成24年度以降の研究にて確認していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、(1)物品購入費、(2)人件費、(3)旅費を計上する予定である。 (1)物品購入費:完成したプログラムを効率的に走らせつつデータを得るために、パナソニックLet's note CF-S10(CPUインテルCore i5 vPro以上、メモリ8GB以上)以上のスペックのモデル、もしくは他メーカーの同等以上のモデル1台の購入を予定している(メモリ増設費用も含めて30万円程度)。あわせて、統計的解析を行うためのソフトウェアオプションの購入を予定している(二元配置以上の分散分析を行うためのオプション、7~8万円程度)。また、予算に余裕があれば、データの保存・整理のための用品(ポータブルハードディスク等)を購入する予定である。 (2)人件費:アルバイトを雇用し、主な業務として、コンピュータ・シミュレーションの結果得られたローデータを統計的解析向けデータセットへと加工する作業を依頼する予定である(雇用日数は15~25日程度)。 (3)旅費:本研究に直接関係する出張のための費用として用いる予定である(関東方面への出張1回程度)。
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