2011 Fiscal Year Research-status Report
ロンドンのアウトリーチ型成人教育におけるカリキュラム開発史の研究
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23730767
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
関 直規 東洋大学, 文学部, 准教授 (50405106)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | メンズ・インスティテュート / 男性労働者 / 成人基礎教育 / 不熟練労働 / レクリエーション活動 / 実用教育 / ジュニア・メンズ・インスティテュート |
Research Abstract |
この研究は、ロンドン教育当局のアウトリーチ型成人教育の成立と特質について、カリキュラム開発史の視点から、明らかにすることを目的としている。本研究のねらいを達成する上で、イギリス現地における一次資料の調査・発掘は不可欠である。本年度は、重要な公文書を数多く所蔵しているロンドン公文書館等を訪問し、ロンドン教育当局の主要な成人教育機関の一つであり、1920年に開校したメンズ・インスティテュートに関する学術書、教育委員会議事録、学校案内及び行政報告書等の集中的な調査、収集、目録化並びに分析を進めた。 考察の結果、同インスティテュートが、開設地区を大都市の人口密集地域に限定し、フォーマルな教育に不慣れなドック労働者を含む、不熟練労働者を対象としたアウトリーチ型成人教育機関であったこと。また、男性労働者の立場を理解し得る校長の下、所得の制約を受けず、実用教育及びレクリエーション活動等に参加する機会を保障したこと。そして、成人基礎教育の要素を含みつつ、実習や社交と統一的なカリキュラムを開発し、開設地域全体の文化的発展を志向しており、イギリス地方教育当局のモデルの一つと認識されていたこと等がわかった。さらに、この成果をベースに、1925年にジュニア・メンズ・インスティテュートが発足する。そのカリキュラムの中心は、身体訓練、家庭大工並びに一般教育であり、青年の興味や生活を軸に、フォーマルな教育を再編成することによって、従来の不参加層を開拓する新たな試みだった。 ロンドンのその他の代表的な成人教育機関のカリキュラムについて、日本では入手困難な一次資料の調査・収集を継続しつつ、受講者の労働・生活環境に配慮し、実証的に考察することが、次年度の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イギリス有数の地方教育行政機関の一つであったロンドン・カウンティ・カウンシルは、公立学校を地域の資源として夜間に活用し、社会的不利益を受けているコミュニティのニーズに根ざすアウトリーチ型成人教育を開発する。現在までに、イギリス現地での一次資料の調査・発掘に基づき、ロンドン教育当局の代表的な成人教育機関の一つだった、メンズ・インスティテュートの構想及び現場の動向を明らかにした。そして、大都市の不熟練労働に従事する男性の特別な必要や社会的・経済的背景を十分に考慮した、アウトリーチ・ワークの特質を捉えることができた。また、この研究の過程で、メンズ・インスティテュートと教育理念を共有し、その下級部に当たるジュニア・メンズ・インスティテュートの実情の解明に至った。これは、ロンドン教育当局の総合的な地域教育計画を理解する上で、重要な成果であった、と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
両大戦間期におけるロンドン教育当局のアウトリーチ型成人教育機関の一つとして、1913年に開校したウィメンズ・インスティテュートのカリキュラム開発とそれを支えていた論理を明らかにする。実際のカリキュラムの内容及び特徴や、担い手たちの議論を把握することで、ロンドン・カウンティ・カウンシルが、いかなる問題意識から、この計画に着手し、どのような独自性を付与していたのかについて、実証的に考察する。その際、女性受講者の労働・生活環境との相互関係や開設地の特色を反映したインスティテュートの柔軟性・多様性に留意し、具体的に検証する。 ウィメンズ・インスティテュートに関する一次資料の調査・収集のため、地元資料を多く所蔵するロンドン公文書館や大英図書館等を訪問する。分析の結果は、学術論文等にまとめ、広く公表する見込みである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
この研究を実施する過程で発掘したメンズ・インスティテュートに関する一次資料や学術書の種類と量が膨大であったため、その整理・分析を優先し、当初予定していた二度目の渡英を延期することにした。次年度に請求する研究費が発生したのはこのことによる。成人教育の影響を受けて、発足したジュニア・メンズ・インスティテュートの実態を解明できた点は収穫だったが、同時に、ウィメンズ・インスティテュートの分析は、課題として残すことになった。 そこで、翌年度以降に請求する研究費と合わせて、二度現地を訪問し、ウィメンズ・インスティテュートに関する一次資料を調査・収集及び考察する計画である。このインスティテュートが、ロンドン教育当局の成人教育機関の中で、地域の実情に応じ、最も多様な内容のカリキュラムを開発しつつ、ロンドン全域に普及していたことから、広い視野で、一次資料を丁寧に精査したい。
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