2011 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ合衆国における「スタンダードに基づく改革」に関する研究
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23730768
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
長嶺 宏作 日本大学, 国際関係学部, 助教 (30421150)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 教育学 / 教育財政 / アカウンタビリティ / スタンダード / 教育改革 / コミュニティ |
Research Abstract |
本研究課題は「スタンダードに基づく改革」による(1)教育制度構造と(2)財政構造の変化を考察することにある。そのために平成23年度では、「連邦主義(federalism)」の理念が、どのように変遷してきたのかを、1960年代の連邦政府における社会政策の変遷とともに比較して検討を行った。 特に、連邦政府の政策は、1960年代では保守的な州と地方学区に対して再配分政策を進展させる主導的な役割を担ってきた。しかしながら、地方学区の問題とされていた教育について、連邦政府の補助金が支出されることは、地方自治の考え方を揺るがしてきた。1965年に成立した「初等中等教育法(Elementary and Secondary Education Act of 1965)」では、地方自治を尊重した政策実施が目指されていたが、そうした政策は地方行政や教育行政に政治的な混乱を与えるとして批判された。この問題を地方自治を再評価する観点から日本教育行政学会第46回大会において、「アメリカ・初等中等教育法(ESEA)におけるコミュニティコントロールに関する研究」として発表した。 また一方で、「スタンダードに基づく改革」についての最新の動向について、日本教育学会第70回大会において、「米国オバマ政権下のRTTT(Race to the Top)政策の分析―テネシー州の「First to the Top」政策を事例に―」として発表した。 以上の二つの発表を通して、「スタンダードに基づく改革」が、どのようにして連邦政府と州政府と地方学区を結び付けようとしてきたのか、あるいは、できなかったのかの考察を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度は理論的な研究を主眼として取り組み、地方自治の理念を明らかにするとともに、連邦・州・地方学区の三者の関係性が変化する中で、どのように地方自治の考えが位置づけ直されようとしているのかを考察した。 しかしながら、アメリカの地方行政の多様性の中で一般化することが難しく、地方自治の理念をうまく整理することができなかった。具体的には「連邦主義」の考え方についても「二元的連邦主義(dual federalism)」と「協調的連邦主義(cooparative federalsim)」という二つの考え方だけでなく、財政上、政治上の考え方で区分する理念もあり、現在の政府間の関係性を明確にする概念を得ることができなかった。しかしながら、連邦主義の考え方を検討することで、アメリカのガバナンスの全体像をつかむことができた。 また、教育制度構造と財政構造の関係性についても、十分な考察ができなかった。全体では関係性を持つように見えても、各州の事例を検討すると、それぞれの州の文脈があり、一般化できるような論理的な関係性を見出すことが難しいところがあった。ただし、次年度からアメリカでの実地調査を予定しているので、より詳細な事例研究を通して、再び理論的な考察へとフィードバックすることで研究の進展に努力したい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度と平成25年度は、引き続き、「スタンダードに基づく改革」による展開が各州でどのように実施されているのかを解明したい。特に、オバマ政権で2009年に成立した「アメリカ再生・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act of 2009)」に基づく「頂点への競争(Race to the Top Program以下、RTTTとする)」政策が実施されている。この新しい政策が実施されてから1年から2年過ぎ、前政権の教育政策を批判したオバマ政権が、どのように教育政策を変えようとしたのかが考察できる。この考察を通して、「スタンダードに基づく改革」がどの程度まで進展し、どのような意義を持っているのかについて批判的に考察したい。 また、教育財政改革のリーディングステイツであるケンタッキー州を事例として、注目して、前年度にうまく解明できなかった教育財政改革と教育制度改革の関係性について明らかにしたい。ケンタッキー州の事例は、「スタンダードに基づく改革」を積極的に導入し、しかも、草の根の教育財政の平等化を求める運動と結びついて展開されていることが前年度の文献研究から明らかになった。従来、トップダウン式の改革であると批判されていた「スタンダードに基づく改革」に新しい視点を加える可能性のある事例であるために、検討する必要がある、 以上の考察を通して、教育制度のガバナンスに、どのような影響を与えたのかについて考察を深めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、連邦政府の教育政策や「スタンダードに基づく改革」に関係する文献調査から理論的な考察を深めるために図書を購入する。また、ケンタッキー州を中心として、教育財政改革と教育改革が同時に進展したいくつかの州の事例調査を行うために、アメリカでの調査を予定している。また、以上の文献調査や実地調査の資料を整理するための人件費を計上している。
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Research Products
(3 results)