2011 Fiscal Year Research-status Report
「科学教育学協会」における「教育的教授」論の誤読とその学校教育学的展開
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23730771
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
牛田 伸一 創価大学, 教育学部, 准教授 (90546128)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ヘルバルト / ヘルバルト学派 / 科学教育学協会 / 教育的教授 / 学校生活 / ドイツ教授学 |
Research Abstract |
平成23年度の研究課題は、一つには、ヘルバルトおよびヘルバルト学派の原典と二次文献の収集と講読、二つには、「科学教育学協会年報(Jahrbuch des Vereins fuer wissenschaftliche Paedagogik)」の入手が挙げられていた。 前者については、上記文献の収集作業は順調に進んだ。 二次文献の講読で明らかになったことは、ヘルバルト学派が必ずしも「教育的教授」だけに限定して、当時の学校を構想していたわけではなかった、ということである。たとえば、ヘルバルト学派のシュトイ(Stoy)についてのコリアントの研究によると(Coriand 2007)、シュトイは「教育的教授」とともに、学校生活を豊かにすることを明確に意図していることが分かった。これは筆者によるヘルバルト解釈で言えば、「教育的教授」と「訓練」の統一を図ろうとしていた、と見られる。筆者は「教育的教授」は、「訓練」と協同してはじめて「教育的教授」である、との解釈から、ヘルバルト学派が総体としてこの点を看過していたのではないか、との推察に基づき研究を進めたが、この点、修正が必要であり、そのためヘルバルト学派の構成員による差異をいっそう明白に把握すべきことが判明した。この点において、今年度の研究は意義があったと思われる。 また課題の後者については、「科学教育学協会年報」の資料収集も一部を除いて、順調に運んだ。 次年度の主な作業はこの資料の精査にある。【参考文献】Coriand, R.: Erziehender Unterricht und Schulleben.In: Klattenhoff, K. (Hrsg.): Beitraege zu schulpaedagogischen Grundsaetzen Johann Friedrich Herbarts. Oldenburg 2007.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書に記載の研究の目的に準拠すれば、本研究の進捗は「おおむね順調に進展している」と見なすことができる。その理由は、ヘルバルトおよびヘルバルト学派の原典と二次文献の入手とその講読も「一部の例外を除けば」、およそ支障なく進めることができたからである。 さらに、研究上の文献解釈の枠組みとなった命題、すなわち「ヘルバルト学派は全体的にヘルバルト・オリジナルの『教育的教授』と『訓練』の共属性を看過していたのではないか」との命題に、二次文献の講読を進める中で修正を加えるべきことが判明した点は、とりわけ「おおむね順調に進展している」と判断できる、研究進捗上の成果だと見ることができる。 ただし、先ほど「一部を除けば」と述べたように、本研究の最重要文献となる「科学教育学協会年報(Jahrbuch des Vereins fuer wissenschaftliche Paedagogik)」の一部がいまだ入手できていない現状がある。次年度がはじまり次第、これらの資料の探索を急ぐことにするが、この点において、平成23年度の研究課題について、若干のやり残しがあったことを明らかにしておかなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、申請時の研究計画書に準拠しつつ、次の三つの課題に新たに取り組むことになる。 研究課題の一つは、平成23年度に引き続き、ヘルバルトおよびヘルバルト学派の原典と二次文献の収集と講読に継続して取り組むことである。特に次年度は、二次文献というよりは、「科学教育学協会年報(Jahrbuch des Vereins fuer wissenschaftliche Paedagogik)」の中身を精読する方に力点がおかれる。この作業を通して、「協会」による諸活動の全般的な把握を試みると同時に、次の問いに対して妥当な回答を導き出そうと考えている。 一つは、「ヘルバルト学派は師の『教育的教授』をどのように解釈していたか。そこにヘルバルトのオリジナルとの捉え方のちがいはどこにあるのか。そしてそうした差異に近代学校はどのように関係してくるのか」との問いである。 もう一つは、「ヘルバルトによる『教育学ゼミナール』の取り組みはどのようなもので、『教育的教授』の理論構想とのつながりをどう読み取ることができるか。ヘルバルト学派による『教育学ゼミナール』の試みはどのようなもので、そこには師の『教育的教授』を誤読した結果がどのように反映されているか」との問いである。 研究課題の二つ目は、上記の後半部の問いの回答に実証的な裏付けを与えるために、イエナ大学とライプツヒ大学への国外調査を実施することにある。両大学は、ヘルバルト学派において「教育学ゼミナール」が営まれた代表的な場所だからである。両大学の図書館の中心に調査を進めることになる。 そして三つ目の研究課題は、上記の研究活動と並行して、研究成果の公表の準備を進めることにある。日本教育方法学会第48回大会の自由研究発表にて研究成果を公表することを予定するが、もちろんその他の公表の可能性も模索することにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費の使用は、上記の研究の推進方策に対応して、次のように整理することができる。 一つは、ヘルバルトおよびヘルバルト学派の原典と二次文献の収集にかかる費用に研究費が使用される、ということである。 なお、平成23年度に繰り越した金額分は、その年度に入手すべきはずのものが、いまだ入手できていない資料、すなわち「科学教育学協会年報(Jahrbuch des Vereins fuer wissenschaftliche Paedagogik)」で現在も手元にないものを購入する費用として使用される。 使用計画の二つ目は、国外調調査費として使用されるということである。ドイツ・イエナ大学とライプツヒ大学における資料探索を主な課題としている。 三つ目の使用計画は、研究成果を公表するための国内出張費として支出されることにある。日本教育方法学会第48回大会が福井大学にて開催されるので、そのための出張旅費として使用される。 最後に、研究進捗上で得られた情報(資料やデータ)の整理のため、アルバイト費として、研究費が使用される。 以上の四つの柱で計画が立てられている。
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