2011 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ連邦政府における中等後教育改善基金の成立過程に関する研究
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23730776
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Research Institution | Kansai University of International Studies |
Principal Investigator |
吉田 武大 関西国際大学, 教育学部, 講師 (70512846)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | アメリカ合衆国 / 連邦政府 / 教育政策 / 財政援助 / 中等後教育改善基金 |
Research Abstract |
本研究では、アメリカ連邦政府による教育財政援助のなかでも、従来から着目されてきた個人援助と機関援助ではなく、これまで看過されていたプログラム援助のありようを検討する意図を有している。そのために、プログラム援助を実施する連邦政府の一組織である中等後教育改善基金(以下、FIPSE)を対象として、FIPSEの成立過程を明らかにすることを目的としている。 2011年度は、FIPSEがいかなる思想的基盤をもって成立したかについて検討することを研究課題として設定した。この研究課題を明らかにする上で、FIPSEの創設に多大な影響を及ぼした人物の教育思想を解明するとともに、法制度との関連を考察することを具体的な作業課題とした。検討の主たる対象は、カーネギー高等教育委員会委員長を務めたクラーク・カー、ニクソン大統領顧問のダニエル・モイニハン、そしてニューマンレポート(1971年)の代表者であるフランク・ニューマンである。 これらの対象の教育思想を検討するにあたり、連邦議会議事録やカーネギー高等教育委員会の報告書、ニューマンレポート等の関連諸資料を収集、分析するとともに、現地において、創設期FIPSEの運営に関わったチャールズ・ヴァンティング氏への聞き取り調査を実施した。 以上の研究活動の結果、次の3点を明らかにした。第1に、教育プログラムへの財政援助という考え方は,全米科学財団(National Science Foundation)をモデルとしつつ、クラーク・カーによって先駆的に提唱された。第2に、高等教育機関による教育プログラムの内容策定に際し、連邦政府が限定的裁量性を与えるというFIPSEの法制的特質の萌芽は3人の思想にみられた。第3に、競争原理に基づいて補助金を配分するというFIPSEの法制的特質を明確に打ち出したのはフランク・ニューマンであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年度は、本科研費申請書に記載した通り、FIPSEに関する先行研究の収集、FIPSEの創設に際して思想的に多大な影響を与えたクラーク・カー、ダニエル・モイニハン、フランク・ニューマンらの関連資料の収集、創設期FIPSEの運営に関わったチャールズ・ヴァンティング氏への現地での聞き取り調査などを実施した。そして、収集した資料や聞き取り調査結果を整理、分析した上で、その成果を紀要論文にまとめることができた。 ただ、ダニエル・モイニハンやフランク・ニューマンの思想に関する資料については、十分に収集できたわけではない。そういった意味で、FIPSEの思想的基盤に関する検討の余地は残されているといえる。 以上を踏まえ、2011年度の達成度については、「当初の計画以上」とはいかないまでも、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2011年度は、FIPSEがいかなる思想的基盤をもって成立したのかを明らかにした。しかし、FIPSEのダイナミックな成立過程を明らかにしていくためには、思想的な側面のみならず、連邦政府の中等後教育に対する財政援助がどのように変容したのかという政治的・社会的な側面にも焦点を当て、精緻に検討していく必要がある。 そこで今後の研究の推進方策としては、連邦政府による中等後教育への財政援助がどのように変容したのか、換言すれば、FIPSEを規定した1972年教育改正法が連邦議会においてどのように制定されていったのかを明らかにしていくことが挙げられる。 同法の制定過程をめぐっては、これまで、<機関援助 対 個人援助>という枠組みの下で連邦政府による教育財政援助のありようが論じられてきたにとどまっており、プログラム援助を正面から位置づけて論究した先行研究は管見の限り、皆無といってよい状況である。 このような状況を踏まえ、今後は、連邦議会における機関援助法案の否決とFIPSEの創設を関連づけながら、1972年教育改正法の制定過程について検討していくことを具体的な研究の推進方策として設定する。 研究を進めていくにあたっては、連邦議会議事録や関連諸資料を引き続き収集するとともに、FIPSEの創設期に同職員として勤務し、当時の教育事情にも精通しているヴァージニア・スミス氏やリン・デメースター氏への聞き取り調査を実施する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
連邦政府による中等後教育への財政援助の変容に関する研究を進めていくために、連邦議会の本会議録、連邦議会下部委員会のヒアリング記録や各種報告書などの関連諸資料を収集する。また、FIPSEの創設期にFIPSE職員として勤務し、当時の教育事情にも精通しているヴァージニア・スミス氏やリン・デメースター氏に対する聞き取り調査を実施する。研究費の具体的な使用計画は次の通りである。 4月から7月にかけて、FIPSEの関連資料やチャールズ・ヴァンティング氏に実施した聞き取り調査結果など、これまでに収集してきた諸資料を整理、分析し、連邦議会におけるFIPSEの創設過程の概要を把握する。また、東京・国立国会図書館において、FIPSEに関する法令や1960、1970年代の連邦議会議事録関連の資料を収集する。 8月から11月においては、それまでの資料収集および分析作業を通じて浮き彫りになった研究課題を解決するために、現地・アメリカにおいて、創設期FIPSEの運営に深く関わったヴァージニア・スミス氏やリン・デメースター氏への聞き取り調査を実施する。また、東京・国立国会図書館において、FIPSEの関連法令や1960、1970年代の連邦議会議事録関連の資料収集を引き続き行う。これらの作業を通じて、1972年教育改正法の制定過程の一端を明らかにする。 12月から1月においては、これまでの研究作業を踏まえながら、1972年教育改正法の制定過程におけるFIPSEの位置づけや機関援助法案の否決との関連についての分析を行う。 2月から3月においては、これまでに取り組んだ研究成果をまとめ、論文という形で最終報告書を作成する予定である。
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Research Products
(1 results)