2011 Fiscal Year Research-status Report
新制師範学校の制度的意義に関する実証的研究―高等教育機関の採用基準に着目して―
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23730783
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
小田 義隆 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (50455094)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 専門学校程度昇格 / 師範学校 / 高等教育 / 教員養成 / 戦前戦後の連続性 |
Research Abstract |
本研究は、国立公文書館で発見した、これまで誰も使用していない戦前における高等教育機関の採用人事資料を分析することによって、1943(昭和18)年の師範教育令改正に伴い専門学校程度に昇格した師範学校(以下、新制師範学校)が高等教育へ昇格したことの社会的な意義を実証するものである。 その方法として、戦前の師範学校以外で教員養成を担っていた文部省直轄諸学校の採用人事に関する履歴書を収集することから始めた。そして、各高等教育機関における採用基準を明らかにするため、収集した履歴書のデータベース化を進めている。当該年度に実施した収集活動によって、官立の帝国大学・高等師範学校等の採用人事資料を入手し、すでに収集が完了した新制師範学校の履歴書等の採用人事に関する資料と横断的・総合的に比較分析する土台が固まってきていると言える。さらに、当時高等教育と認められていた私立専門学校の年史を収集し、次年度において資料調査を行う準備を整えている。 近年、指導力不足教員の問題解消に関連して、アカデミズムを重視した教員養成が目指した教師像が見直されより実践的な教職課程への改革が検討されているが、これらの教師像は戦後教育改革期に開始されたという認識が教育学の研究者の認識として強い。しかし、発見した新資料群からアカデミズムを重視した教員養成はすでに戦前から実施されていたと読み取ることができ、本研究は、「高等教育機関による小学校教員養成の戦前・戦後の制度的連続性が存在した」という仮説を実証的に証明するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は以下のように、高等教育機関に昇格した新制師範学校の教員と旧来からの高等教育機関教員の人事選考基準を比較研究するため、国立公文書館において、これまで誰も使用していない官立の帝国大学・高等師範学校等、戦前から高等教育を担いつつ教員養成を行っていた機関の人事選考資料の収集を実施し、収集した資料のデータベース化を進めるとともに、文献研究も行った。 1.国立公文書館において資料収集の実施と整理:国立公文書館が所蔵する、文部省直轄諸学校官制に記載されている教員養成を担っていた高等教育機関の教員人事に関する資料を中心に収集した。具体的には「高等官進退」、「判任官進退」、「教員採用」を収集した。これらの資料から、文部省直轄諸学校に採用された教員一人ひとりの、採用時期・審査機関・経歴の詳細を網羅したデータベースを作成が進行中である。 2.文献研究:1943(昭和18)年の師範教育令改正に伴う新制師範学校を取り巻く社会的な環境の変化に着目するべく、文献研究を進めている。昭和戦前期における公務員制度と給与制度に関しての文献を収集し、先行研究の少ない戦前の教員給与制度の実際を明らかにし、人事資料の給与など待遇面の比較分析を進め、高等教育機関としての師範学校像に関する裏付けにするべく準備している。 3.成果発表:高等教育機関としての師範学校像を明らかにする一環として、戦後学校教育機関として位置付く幼稚園教員養成に関しての発表を教育史学会において行った。新制師範学校での保育者養成において、これまで実習を位置づけていなかったことを改善し、女子師範学校生に対して保育実習を必修化し資質の向上を図るとともに、男子師範学校生に対しても就学前の子どもに関する学習を必修としたことの意義を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、前年度の成果に基づき、国立公文書館等において収集した資料の分析を継続する。 次に、師範学校が師範教育令の改正により専門学校程度に昇格した1943(昭和18)年前後の私立専門学校の人事に関する一次資料の収集を行い私立専門学校教員に関する人事選考の基準を明らかにする。さらに、専門学校令に伴う私立学校の高等教育機関として認可された基準にも着目する。それらをふまえて、新制師範学校及び文部省直轄諸学校の人事選考の基準との比較研究を行う。 また、各高等教育機関の沿革史や教育雑誌等の教育ジャーナリズムなどの文献研究によって、国立公文書館で収集した資料の裏付けを行うとともに、戦前における公務員制度及び教員の給与体系においての新制師範学校の位置付けを行う予定である。以上のような横断的・総合的な分析により高等教育機関としての新制師範学校の実像を究明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、上記今後の研究の推進方策にのっとり、前年度に引き続き国立公文書館で資料を収集する予定である。また、戦前から高等教育機関として認可されていた私立専門学校を前身に持つ私立大学に調査研究に行く予定も立てている。 前年度に引き続き文献研究を行うため、大学沿革史などの年史や関係書籍も購入する予定である。これらの成果は、「教員養成を担う高等教育機関と新制師範学校の採用基準に関する比較研究」として日本教師教育学会で発表する予定である。さらに、研究のまとめを冊子にまとめることも考えている。 よって、本年度の研究費助成金は、その旅費や書籍代及び印刷費に使用する計画である。
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