2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23730789
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
二宮 祐 一橋大学, 大学教育研究開発センター, 講師 (20511968)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 高等教育 / 政策過程 / 高大連携 |
Research Abstract |
「制度」とアクターの行動を相互依存的に捉える新制度論、言説やアイディアに着目する政策科学論についての文献の精読を進めるとともに、高等教育政策の政策過程に対するそれらの適用可能性について論じる研究会を開催した。また、1970年代における「高校から大学への移行」に関連する資料の収集・解読をおこなった。とりわけ、いわゆるマイクロエレクトロニクス革命を目の前に控えたこの時期においては、高校の工業科と大学の工業系学部の「接続」が焦眉の課題のひとつとされていたことから工業分野の資料を重点的に扱った。明示的なカリキュラムに関わるものとして大学入試における「接続」、高校と大学の教育課程の「接続」について、また、隠れたカリキュラムに関わるものとして生徒・学生の意識に関わる「接続」について、それぞれ検討した。さらに、文部省等の「産業大学」構想に関連して、産業教育振興中央会、理科教育及び産業教育審議会、高校の各種校長会、大学共通第1次学力試験等の資料の収集・解読をおこなった。大学進学者の量的抑制の結果として生じた困難―入学試験の激化等―に関する研究は教育社会学においておこなわれてきたものの、その困難を導いた政策を対象とした研究はこれまで不十分なままであった。また、現代において「高大連携」として認識されている課題の多くは、すでに1970年代に提起されていたものである。そこで、以上の研究は第一に、かつての実現しなかった「高校から大学への移行」に関する取組みを明らかにすることによって現代の課題への示唆を得るという意義を有している。第二に、政策課題が認識されていたのだとしても、法や行政決定には必ずしも結びつかない「非決定」の政策に着目することで、そうした教育政策の政策過程研究への貢献という意義を有している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新制度論や政策科学論の検討と並行して、各種資料の収集・解読も順調に進んでいる。1970年代における職業高校の生徒の大学進学希望に関する各アクターの課題意識、その課題意識に対応した文部省「職業課程修了者等のための高等教育に関する調査」をふまえた「産業大学」構想および放送大学の設立などの政策案に関する整理は整いつつある。それらの成果を教育史に関する研究会において報告した。ただし、聞き取り調査については対象者の都合により当初予定よりも遅れている。しかしながら、理論の検討、資料の収集、解読を通じて、政策内容の規範的検討が中心であって従来の教育政策研究の不備を補うことに前進していると考えられる。「高校から大学への移行」メカニズムの動揺への対応に関して「非決定」の政策が採られたということが明らかになりつつある。放送大学が壮大な履修者数を見込んでいたこと、専修学校の拡充が急激に進んだことによって、職業高校の生徒の大学進学希望に対する直接的な政策は実施されない。「産業大学」構想も、前期高等教育計画の実施下であったことと、そもそもの資源不足によって実現しない。また、大学入学者数の「量」を抑制したことによって「質」が向上したといわれる通説の背景にあった当該メカニズムの陥穽についても明らかになりつつある。高校と大学の両者において職業教育を等閑に付すロジックがそのメカニズムを機能させることに関連しているのである。
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Strategy for Future Research Activity |
文献調査と並行して、研究会の開催、資料収集・解読、聞き取り調査を継続する。資料収集については今後も随時実施する。高等教育政策関連の資料は散逸していることが多いため、日本高等教育学会の会員の協力を得て進めていく。また、進捗が遅れている聞き取り調査に関しては、申請者が参加している教育史に関する研究会のメンバーの助言のもとに実施する予定である。平成24年8月、9月に集中して実施する。収集・解読した資料についてはデータベースに入れるものとする。すでに、日本経営者団体連盟をはじめとする経営者団体の資料についてはデータベースが完成しているので、それに追加するかたちとする。随時実施する予定である。平成24年6月の日本高等教育学会の個人研究発表において政策過程研究としての「高校から大学への移行」メカニズムの動揺に関する報告を行う。および、平成24年10月の日本教育社会学会の個人研究発表(例年9月に開催)において、職業高校の生徒の大学進学希望に関する「クレイム」を中心として、高大連携に関する課題の歴史的推移に関する報告を行う。両発表をふまえて、理論研究の成果を示す論文、実際の政策過程を検討するための論文を執筆する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
プリンタートナー20千円、書籍(政策過程論関連)100千円、合計120千円を物品費として使用する。広島大学における資料収集50千円、宮城からの研究協力者の研究会出席180千円、京都における研究成果報告のための学会出席50千円、資料収集のための外勤交通費5千円、研究協力者の研究会出席外勤交通費15千円、聞き取り調査のための外勤交通費6千円、合計306千円を旅費として使用する。通信費4千円、複写費70千円、合計74千円をその他として使用する。なお、平成23年度の研究経費支出残額に52,316円の端数が生じた。平成24年度は平成23年度支給残額52,316円も加えて執行する。
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