2012 Fiscal Year Research-status Report
日本の聴覚障害教育における口話法導入の経緯とその教育的・社会的基盤
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23730865
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Research Institution | Kyushu Lutheran College |
Principal Investigator |
佐々木 順二 九州ルーテル学院大学, 人文学部, 准教授 (20375447)
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Keywords | 聴覚障害 / 口話法 / 歴史的・社会的基盤 / 研究サークル / 臨時教員養成所 / 戦前・戦後の連続性と非連続性 |
Research Abstract |
本年度は以下の課題に取り組んだ: 1.口話法教育導入の教育的・社会的基盤に関する史資料収集、情報収集 史資料収集としては、東京都立中央図書館、宮崎県立図書館、熊本県立図書館において、県教育会雑誌、県史、市史、聾学校記念誌等から、聴覚障害教育にかかわる史資料の収集をおこなった。情報収集としては、聴覚障害教育と並んで比較的早期から教育の開始された視覚障害教育の歴史的研究に取り組む「日本盲教育史研究会」の発足総会・第1回研究会に参加した。同研究会を通じて、聴覚障害教育との共通の歴史的基盤や共通点・相違点を検討していくことが期待される。研究助言指導の立場の研究者を介して、スウェーデン及びドイツのインクルーシブ教育の達成状況に関する調査に参加する機会を得た。両国のインクルーシブ教育の基盤を構成する要素には、相違点もあるが、多様性の尊重、自由と責任ある個人の育成という教育理念、インクルーシブな学校を創造しようとする個々の教師の熱意・モラールなど、共通するものもみいだすことができた。インクルーシブ教育時代における聴覚障害教育において、これらの基盤となる要素を日本の社会的文脈や歴史的文脈にみいだすことができるか否かという点は、今後検討していく必要がある。 2.元聾学校教員へのインタビューの実施 第二次世界大戦後から1970年代末まで九州地方及び関東地方の聾学校に勤めた元教員1名に対し、日本の口話法教育を支えた基盤が何であったかについて、聞き取り調査をおこなった。同氏への聞き取り調査から、日本の口話法教育の戦前期における到達点と戦後期への連続性を考える際、対象児童の就学年齢、聴力損失の程度、担い手たる教師の養成の内容、指導法を研鑽する研究サークルの存在などが重要な要素であると示唆された。聞き取り調査については、今後も対象者を広げおこなっていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的及び実施計画に照らして、研究期間2年を経た段階での達成状況として、以下の点で遅れを指摘できる。 1.聾唖学校教師が装備した理念・目的論に関する系統的な分析が不十分である。 2.口話法の社会的基盤として家族、地域社会の期待内容の分析が不十分である。 3.教育方法論およびその実践内容について、その一端は聞き取り調査から明らかになりつつあるが、被調査者を口話法教育導入の歴史にどのように位置づけられるかが明らかでない。 4.海外の口話法に関する収集済みの史資料の読解、分析が未着手である。
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Strategy for Future Research Activity |
残りの研究期間内において、研究の目的を達成するために、分析課題をより焦点化する必要がある。今年度は特に、以下の三つの課題に取り組むことで、研究を推進していく。 1.聾唖学校教師の理念・目的論、及び教育方法論に関しては、全国を網羅的に把握する余裕がないため、本年度は特に、口話法教育の拠点の一つであった官立東京聾唖学校における理念・目的論、方法論の系譜を分析対象とし、必要に応じて他校との関連、比較をしていく。 2.本年度聞き取りをさせてもらった元聾学校教師は、官立東京聾唖学校の系譜ともかかわりがある人物であるため、引き続き聞き取り調査を実施し、同氏と関連する人物や研究サークルに関する調査・分析を進め、戦前期までの口話法教育の到達点と課題、戦後期への連続性を明らかにしていく。 3.口話法導入における拠点的学校と地方校との相違や関連を分析するため、熊本県立盲唖学校(及び熊本県立熊本聾学校)に焦点をあて、教育の理念・目的論、方法論、対象論を軸に比較分析をおこなうとともに、官立校を含む口話法教育をめぐる拠点校との人的交流の側面からも分析をおこなう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
元聾学校教師への聞き取り調査の補充および関連する人物や研究サークルに関する調査・分析にあてる。具体的には、研究助言指導への謝金、出張旅費、史資料収集に使用する。
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Research Products
(3 results)