2013 Fiscal Year Research-status Report
日本の聴覚障害教育における口話法導入の経緯とその教育的・社会的基盤
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23730865
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Research Institution | Kyushu Lutheran College |
Principal Investigator |
佐々木 順二 九州ルーテル学院大学, 人文学部, 准教授 (20375447)
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Keywords | 聴覚障害 / 言語指導 / 口話法 / 教育的・社会的基盤 / 歴史 / オーラル・ヒストリー |
Research Abstract |
1.官立東京聾唖学校における聾唖学校教師の理念・目的論、方法論の系譜の分析:同校の同窓会誌『口なしの花』『殿坂の友』(1906[明治39]~1943[昭和18]年)について、37年間にわたって同窓会の会員資格と本誌の内容構成がどのように変化していくのかを分析した。本誌は、同窓生や聾唖学校教師の目指した自立像、教育に期待したものがいかなる内容であったか、またそれが時代とともにどのように変遷を遂げていくのかを探るために有効な資料源であることが確認された(研究成果の一部は書評に執筆)。 2.日本特殊教育学会の自主シンポジウム「日本障害児教育史研究における新しい観点と成果」での話題提供と論議:「聾唖教育への口話法導入問題の再考」と題する話題提供をおこない、昭和戦前期の口話法教育の到達点と課題、並びにそれらが戦後聾教育にいかに接続するのかを、口話法の理論的・実践的研究の蓄積、実践の担い手と養成、研究サークルの点から提示した。指定討論者から、戦前と戦後の連続性・不連続性の分析のためには、より多元的にみる方法論の確立が必要であるとの指摘があり、指導法をめぐる専門家や当事者の言説、聾(唖)学校の対象の変化、補聴器の開発、同時法やキュード・スピーチの導入の経緯、聴覚障害文化としての手話の再評価といった観点が示された。論議を通じて、聾唖教育への口話法導入の経緯をより多元的に把握する視点をもつこと、戦前から戦後、そして現在までの時間的経過における正確で妥当な情報の必要性が確認された。 3.聞き取り調査と史資料の収集:聴覚障害教育の教員養成課程のある中国四国地域のA大学にて、同大教授B氏より、焦点をあてるべき研究対象(人物、学校、研究会等)、史資料の所在について助言指導を得た。さらに同大図書館・資料室にて、戦前期の聾唖学校の共同研究会記録、同地域の聾学校史に関する資料の収集をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、昨年度の達成度に照らして作業課題を焦点化して作業を進める計画を立て、研究補助の短期雇用の活用によって作業の効率化に努めた。しかし、妻の妊娠期間における長期自宅療養、育児の開始という生活上の出来事が重なり、研究時間を十分確保できなかった。このため、2013年度に予定していた、聞き取り調査をする元聾学校教師の対象を広げること、官立東京聾唖学校と地方の聾唖学校(主に熊本県立盲唖学校)の人的交流の分析や教育の理念・目的論、方法論、対象論の比較分析が部分的な段階に留まった。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は9月後半まで育児休業を取得するため、この期間は本研究課題の遂行を一時中断し、次年度への研究期間の延長を申請予定である。2014年度は、特に以下の課題に取り組む。 1.官立東京聾唖学校における理念・目的論、方法論の時系列的な分析を継続する。その際、学会自主シンポジウムにおける論点の一つであった対象論の視点を加え、口話法の理念と実態のかい離を含めた歴史的事象の正確かつ妥当な把握をおこなう。 2.熊本県立熊本聾学校における史資料調査および同校の元教師への聞き取りをおこなう。同校は官立東京聾唖学校師範部の卒業生の勤務実績があり、こうした教師たちが、同校の教育体制の整備、教育方法の研鑽(特に口話法導入)において果たした役割について明らかにする。 3.収集済みのドイツ語文献の翻訳と分析
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
妻の妊娠に伴う長期自宅療養、育児の開始という生活上の出来事が重なり、研究時間を十分確保することができず、文献収集のための遠距離出張費、文献購入費、謝金の執行ができなかった。 2014年度(最終年度)は9月後半まで育児休業を取得するため、本研究の遂行を一時中断し、研究期間延長を申請する予定である。よって、当該年度に生じた次年度使用額については、2014年度9月下旬以降から2015年度にわたり、未執行であった史資料収集のための出張費、文献購入費、謝金の執行に充当していく計画である。
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Research Products
(2 results)